大相撲小言場所


平成十年春場所展望

 今場所は武蔵丸が綱取り場所。実力面からいけば両横綱となんら遜色のない大関だが、問題は精神面。先場所14日目、この一番に勝てば優勝という場面で苦手貴ノ浪に敗れたが、武蔵丸の場合、常にこのような不安を持っていると言える。心技体というが、苦手意識だけではなく、プレッシャーに弱いというのが綱取りへの最大の強敵と言えるだろう。案の定というか、初日の琴錦戦、武蔵丸の体は全くといっていいほど動かなかった。土俵際、腕を手繰られてあっさり土俵を割ってしまった。あとはどれだけ開き直って自分の相撲をとれるか、だ。平常心で臨めばこんなに強い力士もいないのだ。
 大関争いには武双山と栃東が名乗りをあげている。特に武双山は2場所続けて三役でフタケタ勝利をあげているので、今場所内容のよい相撲で12勝くらいしたら大関の声がかかるだろう。九州場所はまだ後ろに下がると踏ん張りがきかなかったが、初場所は後退しても力が出ていた。つまり、怪我をする前の状態にひと場所ごとに戻りつつあるのだ。そうなると、今場所はますます期待できるというもの。初日の厳雄戦も立ち合いの変化に慌てることなく前に出ている。横綱大関の調子がよくない今場所は、優勝の可能性もある。
 栃東も九州場所にいためた足の状態は、すっかりよくなったようだ。先場所はもう一歩というところで優勝にはいたらなかったが、今場所は優勝争いに絡んでくることだけは間違いあるまい。正攻法で上位陣に勝てるだけの地力を備えてきた。まだ若いだけに、吸収力もあり、ひと場所ずつ相撲が立派になってきた。勢いのあるうちに大関に昇進しておかないと一度チャンスを逃すとなかなか次が巡ってこない。武双山ともども今、このチャンスをつかんでほしいのだ。
 貴乃花は先場所休場した後遺症が気になる。土俵勘さえ戻れば大丈夫だろうが、それまでに黒星が重なると連続休場という可能性もある。初日、千代大海の押しに全く腰が決まらずにずるずると後退してしまった。貴乃花が強すぎても面白くないが、弱すぎるとなお面白くない。貴乃花という大きな壁があってこそ、武双山、栃東もそれを跳ね返して大関に昇進するという付加価値がつくのだ。
 曙は、今場所も先場所同様脇役に徹すること。今の曙は全盛期を過ぎ、横綱という看板だけで相撲をとっている状態なのだ。横綱らしい相撲とかそんなことを考えている場合ではない。なりふりかまわず勝ちにいくぐらいでちょうどだろう。寂しいことだが、それが現実である。

 最後に、場所前に行われた相撲協会の理事選について一言。
 行き過ぎた改革を行った境川理事長が保守派の若手親方に負けた格好だが、要は「若貴人気」で沸いた時期に思い切った改革をしてしまわなかったから今日があるのだということだ。
 相撲人気がジリ貧になってから慌てて改革をしても、泥棒を捕らえてから縄をなうのと同じこと。新理事長の時津風親方には、増え過ぎた相撲部屋の数、稽古不足で怪我人が続出する土俵など、根本的なところから見つめ直していってほしいものである。

(1998年3月8日記)


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