大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜貴乃花久々の賜杯

 貴乃花が5場所ぶりに優勝。内蔵の疾患などで苦しい場所が続いていたので、さぞかし嬉しかったことだろう。場所前に「優勝宣言」をしてちゃんと実現させたんだから偉いもんです。
 新聞でも放送でも、この優勝で「貴乃花復活!」とやっていたけれど、私はまだ疑問符をつけておきたいような気がしている。
 一番よかった時の貴乃花というのは、動き全てが自然な流れで、強引さとは無縁であった。普通に組んだだけで腰はおり、左右どちらでもまわしを取ると相手の体は浮いてしまい貴乃花は一見何も仕掛けていないのに、相手から崩れてしまうように勝負が決まったものである。
 今場所はというと、常に腰がおりるように意識している感じ。だからいささかへっぴり腰。それをカバーするように、上体で相手を追いつめる。腰から寄っていくというより、上からかぶさるような形になる。自分から頭をつけにいく相撲が多かったのがいい証拠である。絶頂期の貴乃花はそんな相撲を取る必要がなかったのだ。
 今場所の貴乃花は自分の相撲がとれないのでとにかくがむしゃらに勝ちにいって、優勝をもぎ取った、というように私には見えたけれど、どうだろうか。
 新横綱の若乃花は10勝したのだからよしとしよう。新横綱の場所に休場した力士だっていた。場所前の行事で稽古も不足し、先場所までのプレッシャーから解放され、そして、新たに横綱としてのプレッシャーがかかってきて……という悪条件の中で力強い相撲をとり、フタケタ勝てたのだ。偉いと思っている。
 新関脇の千代大海が11勝をあげて技能賞も獲得した。ずっと以前から注目していただけにこうブレイクしてくれると嬉しいものだ。でもね、武双山との相撲では土俵中央でケンカまがいのどつきあいをしている。あれはいけない。あの相撲を考えたら、技能賞は(今場所は)あげないほうがよかったのでは。フタケタ勝ったこともあり、大関候補の声もあがっているが、気迫が空回りしたらガタガタッとなりそうなので、大関昇進はまだまだなのではないだろうかと思う。
 今場所残念だったのは、琴錦、安芸乃島といった個性派のベテランの途中休場だ。怪我をするくらい真剣にやっているといえなくもないが、貴乃花も琴錦との相撲がないのは助かっているのではないかな。

 十両落ちしていた元小結の三杉里と元幕内の小城ノ花が今場所限りで引退、準年寄の資格を得て協会に残ることになった。
 三杉里は右で上手をとった時の投げの形がよかった。身長と体重が幕内力士の平均値と同じだということで話題になったが、相撲っぷりは平均以上だった。
 小城ノ花は新入幕のころが一番よかった。同じ部屋のライバル、竜興山が急死してから、みるみるうちに生気がなくなっていった。弟である小城錦の入幕のころは糖尿などで体のハリもなくなっていた。あのままのびていたら常に三役にいるような力士に育っていたのではないだろうか。
 力尽きた感じの両力士の引退であった。

(1998年7月20日記)


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