なにやら若乃花と貴乃花の兄弟に関して、妙な話がメディアを騒がせるようになってきた。若乃花が横綱に昇進してからの貴乃花の原動が変化してきたのには気がついていた。
記者たちに対してよくしゃべるようになってきた。しかも自分の心境をあけすけに。特に若乃花に対する批判は「何もそこまで」と思うほどの激しさがあったが、それは同じ「横綱」という地位についた者としてライバル視するようになった現れと好意的に見てきた。
ところが、どうもそうではないらしい。貴乃花は世話になった整体師に心酔するあまり、他の者の言葉を受けつけなくなってしまったということらしいのだ。父であり、師匠である二子山親方は「貴乃花は洗脳された」という恐ろしいコメントを発表している。
人は求道的になればなるほど常ならぬものになっていく。大横綱双葉山が戦後新興宗教に入信して話題になったことがあるし、プロ野球の榎本喜八はその奇矯な原動から球界では敬遠されるようになり、卓越した打撃理論を持ちながら指導者として迎えられてはいない。
貴乃花という人物がどういう人物であるかは報道からしか伝わってこないが、数年前の宮沢りえとの婚約、解消などの経緯を見ていると、思い込んだら脇目もふらず突っ走ってしまうところがあるようにも感じられる。
そういう意味では、今場所も多少の騒動など無視して自分の目的……勝つことに対して突っ走るであろうから、優勝候補の一番手ということになるだろう。先場所そうだったように、頭をつけなりふりかまわず勝ちにいけば、そうそう星をこぼすこともあるまい。
対する若乃花だが、果たして土俵に集中できるかどうか。迷いが出てしまったら、集中力が勝負の力士だけにガタガタといく恐れもある。
そうなると、曙に期待できる。特に今場所からちゃんと手をついた立ち会いをするようにと指導が強化されたことが、曙にとってプラスになるような気がするのだ。曙は精神面でムラがあり、あわてて出ていってバッタリというケースが多いが、立ち会いに手をつくことによってしっかりと腰を割り、相手をよく見て相撲をとることができるようになるだろう。そうなると曙の弱点である下半身のもろさなどが目立たなくなり、かなり自分の相撲をとることができるようになる、そんな気がする。
貴ノ浪、武蔵丸の両大関に大きな期待をかけるのはやめにしたので、期待は関脇以下に。
出島が今場所大関の足掛かりをつかみそうな気がする。逆に、千代大海は取り口を覚えられて苦しい場所になるのでは。
もうひとり、注目したいのが寺尾だ。幕尻に下がり、十両陥落の危機もある。華のある得難い力士だけに、このままでは終わってほしくない。その踏ん張りを期待したい。
(1998年9月12日記)