大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜千代大海、初優勝〜

 いやあ、まさか千秋楽で若乃花が千代大海に逆転優勝を許すとは思わなかった。
 それぐらい、今場所の若乃花の相撲はすごかった。全勝するかと思ったほどだった。場所前に騒がれた夫人との別居問題をバネにして、ひたすら土俵に集中しているという印象を受けた。伯父にあたる45代横綱初代若乃花幹士は「土俵の鬼」と呼ばれたが、今場所の若乃花も「土俵の鬼」と呼びたいほどの激しい相撲だった。武双山に突き落とされて1敗目を喫したあたりから、勝ち急ぎというのかちょっと上体が先行するような相撲にはなったけれど。千秋楽、千代大海との本割はねじ伏せられた感じはあるが、あの負けで力尽きたという印象も与えたか。優勝決定戦ではさすがに土俵際驚異的な粘りを見せたが、そこまで。取り直しの時は気力体力ともぎりぎりではなかったか。せっかくの優勝のチャンス、もったいないことをした。
 優勝した千代大海の相撲は、彼本来の激しい突き押しが生きた相撲だった。ただ、場所前に指摘したように、引き技で勝って癖がつき、土佐ノ海や安芸乃島には引いたところをつけいられてしまった。堂々たる優勝で来場所の大関昇進も間違いのないところだろうが、徹頭徹尾突き押しで勝つ相撲をもっともっと見せてほしい。とはいえ、新入幕の頃から注目してきた力士だけに、今回の初優勝は嬉しいものがある。
 殊勲賞の武双山は往年の鋭い出足こそ完全に戻ってはいないけれども、常に攻めの姿勢を崩さなかったことが2ケタ勝利に結びついた。来場所は大関がかかる場所になるだろう。早くから大関候補と騒がれながら怪我などで低迷していただけに、千代大海の大関昇進は大いに刺激となることだろう。来場所の大関挑戦に期待がかかる。
 技能賞の安芸乃島は腕の怪我が治ったのかな。昔のようにがっちりとまわしを引きつけ、低い体勢からのしぶとさが戻ってきた。
 新入幕で敢闘賞の千代天山は10勝しての堂々の受賞。とはいえ、立ち合いの変化で叩き込む相撲などは感心できない。すじのいい相撲を取る力士なのだから、目先の勝星よりも組んでからの出足を生かした相撲に徹してほしいものだ。
 前半、巌雄の相撲が変わってよくなったので期待したが、後半元に戻ったのが残念。師匠の北の湖親方ばりにかちあげ、のど輪で相手をのけ反らせておいての攻めは見事だった。毎日あの立ち合いでいけば……と思いながら見ていたのだが、すぐにかちあげを見せなくなりそのまま脱落してしまった。
 栃東出島は勝った相撲は持ち味を生かしたいい相撲なのに、負ける時は力を出し切っていないような感じがした。それでも、いい勝ち方をしているのだから、きっかけがあれば来場所以降一気に開花する可能性を秘めているように感じさせた場所であった。
 武蔵丸貴ノ浪のていたらくについては何もいいたくない。もう少しで2大関とも負け越しとなるところだったのだ。どうしても勝つんだという思いが伝わってこない。諦めが早い。引退直前の大関の相撲ですぞ。
 十両優勝の雅山は幕下の頃の雑さが少しずつ影をひそめてきた。しかし、まだ力任せという印象がある。老練の旭豊との相撲などがその弱点を示したように思われる。幸い、武双山、出島と同じ部屋の稽古相手に恵まれている。ダイヤの原石が原石のまま幕に上がってくる。どこまで通用するかが見物だ。
 負け越しはしたが、土佐ノ海玉春日蒼樹山は持ち味の押し相撲で土俵を沸かせた。その姿勢さえ崩さなければいいのだ。
 琴錦は初日に貴乃花に勝ったことで欲が出たかな。勝ちを焦って前進しても足がついていっていない。先場所微笑んでくれた相撲の神様は気紛れなようだ。あれだけ理想的な相撲をとった翌場所なのに、全くあのようなすばらしい相撲を取ることができなかった。相撲はやはり奥が深いなあ。
 貴乃花は……。上体ばかり太り、腰が高く、粘りもない。まるで別人だ。腰と内臓は相当悪いのではなかろうか。体に力が入っていないようにも思える。休場してもいい。体調を万全にして土俵に上がってもらいたい。そして、本来の貴乃花の理想的な相撲に戻ってほしい。このままでは、みじめな姿をさらすばかりである。しかし、人というのはここまで変わるものか。
 ともかく、千代大海の闘志が今場所最大の見どころだった。武双山だけでなく、出島、栃東、魁皇、土佐ノ海など、かつて大関候補とされた力士たちも千代大海の大関昇進をバネにして再び大関をめざして精進してほしいものだ。

(1999年1月25日記)


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