今場所は新横綱武蔵丸が登場するわけだが、横綱としての真価を問われることになるだろう。先場所休場した貴乃花、千代大海といった横綱や大関が出場してくるからだ。特に貴乃花は場所前の稽古もいい状態だったと報道されているので、先場所のようにはいくまい。武蔵丸の新横綱優勝は、過去の横綱たちがそうだったように、かなり難しいと見ている。武蔵丸の場合、昇進したことによる安心感がよりいっそうの安定につながるか、緊張感の欠如につながるか、ということだろう。
では、貴乃花が即優勝候補かというと、これもどうだろうか。かつて千代の富士は休場あけの場所に強かったが、これは休場によって体力を温存できたためであり、休場する前の場所には優勝していたりというようなこともあったのだから、同列に論じることはできない。実際、連続休場直前の貴乃花の相撲は、正直言って目を覆うようなものだったのだ。先場所の曙と同様、再起に向けてのならし期間と考えた方がよかろう。とはいえ、決して侮れない存在であることだけは確かなのだが。
となると、曙の優勝の目が出てくる。先場所は序盤こそアップアップの状態であったが、本場所の感覚を徐々に取り戻した中盤は、全盛期を思い出させる破壊力を見せた。調子を維持できていたら、状況としては一番有利であるように思われる。そういう意味では貴ノ浪にもチャンスはある。曙と貴ノ浪が優勝争いをするというのも面白かろう。
ダークホースは魁皇。二場所連続の二けた勝利で、今場所優勝争いにからむようだと場所後には大関昇進もあり得る。腕力に頼ったところのある相撲ばかりではほめられたものではないが、先場所あたりから勝ち星への執着心みたいなものが見られてきたので、怪我さえしなければ昇進の可能性はある。
千代大海は序盤でいかに自分のリズムを取り戻すかがポイントか。押し相撲は波に乗れば強い。波に乗りきれない場合、それをしのいで何とか勝ち越すだけの老獪さがないだけに、下手をしたら負け越し、陥落の屈辱も考えられる。稽古場では調子はよくないらしいが、千代大海は本場所で勝負するタイプだから、とにかく序盤に思い切っていくことだろう。
出島、栃東については、愚直なまでに自分の相撲を追求し、決して小手先で勝とうとしないことを望む。かつて大横綱、名大関と呼ばれた力士は、昇進前には目先の勝ち星よりも自分の相撲をとりきっていた。そういう意味では、千代天山は今場所も台風の目になるかも。
土佐ノ海、玉春日あたりが大暴れしてくれると、土俵も楽しくなる。貴闘力、安芸乃島、寺尾らベテランの奮起、十両にいる水戸泉の幕内再挑戦などにも期待したいところだ。
横綱若乃花は連続休場。よくあの体でがんばっている。この休場は先述した千代の富士と同じ効果をもたらす可能性がある。したがって、今場所はじっくり怪我を治して、来場所に臨んでほしいものである。
（１９９９年７月３日記）
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