貴乃花の「出るよ〜ん」発言にはまいったな。人間が変わったのか地がもともとそうだったのか。かつて彼はストイックなまでに自分の感情を押し殺していたのに、例の整体師洗脳騒動からあと、喜怒哀楽をはっきりさせるようになったことは確かだ。しかし、出場することを発表するのに「出るよ〜ん、出るよ〜ん」などという横綱は、長年相撲を見てきているが、これが初めてだ。いくらなんでも浮かれすぎではないだろうか。浮かれられるような状態で出場するわけではなかろうに。
その貴乃花だが、左手の怪我を完治させているわけではないようなので、それほど多くは望めまい。先場所負け越した若乃花と途中休場の曙は揃って休場。千代大海の足首の怪我も完治していないようなので、苦し紛れの引きがまたぞろ出るようだと10勝がやっとか。貴ノ浪はもう相撲を楽しんでいるような感じになってしまっていて、どうしても勝とうという感じではない。今場所大変身するか、よくわからん。この力士ほどわからん力士はいない。休場明けという点でも厳しいものはある。
となると、消去法でいって優勝候補は武蔵丸と出島が順当なところかな。武蔵丸は絶対的な強さがないかわりに大崩れしないから、12勝くらいで踏みとどまれる。出島は先場所新大関で10勝をあげ、特に後半戦は得意の出足がよかった。大関の地位に慣れた今場所は、自分のペースで相撲が取れるのではないか。安定した力を発揮すれば、先場所の勝ち星に2つか3つくらい上積みできるだろう。
しかし、優勝候補を消去法であげていかなければならない現状には、寂しいものがある。これという目玉がないのだ。あえてあげれば、栃東か。先場所の殊勲賞は大関候補への名乗りと見ていい。大関を狙うと明言している前向きな姿勢も買える。
優勝といえば先場所最後まで優勝争いをした安芸乃島がいるが、上位の不安定なところを考えると、先場所のようなしぶとさがあれば、今場所もかなりの成績を残すだろう。
楽しみなのは新入幕の隆乃若だ。決して恵まれた体ではないし、力任せの相撲を取るときもあるが、入幕を機に大化けをするかも。同い年の若の里とともに、鳴戸部屋コンビで売り出す23歳。ここらあたりが順当にのびてくれないとね。若の里というと、ずっと両手をつく立ち合いを貫いてきたけれど、先場所は片手を添えるような立ち合いになっていてがっかりした。今場所はぜひ元のように両手をしっかりつくきれいな立ち合いを見せてほしい。
しかし、こうやって展望を書いていても、なんだか低調で盛り上がらない。満員御礼が出なくなったのもわかるような気がする。若乃花の休場が痛い。やはり存在感はこの横綱が一番ある。怪我の完治を待ちたい。
(1999年11月6日記)