大相撲小言場所


九州場所をふりかえって〜横綱決戦を制した武蔵丸〜

 千秋楽は11勝3敗同士で武蔵丸と貴乃花が対戦。久々の横津相星決戦となった。とはいいながらも、3敗同士というのは、ちょっとレベルが低い。横綱決戦ならば、全勝か1敗くらいのものが見たい。まあ、これもここのところの相撲の低調さを表しているのかもしれない。
 両まわしを取った貴乃花だが、腰が高く寄り切れない。逆に武蔵丸に逆転のすくい投げを打たれて一回転して土俵に叩きつけられた。しばらく土俵に腰掛けて呆然としていた貴乃花の表情が印象的。全力を尽くした後の脱力感というものが感じられた。
 実際、貴乃花はよくやったのではないか。休場明けで、初日の玉春日には腰高を突かれて一方的に敗れる。やっぱり今場所も駄目かと思わせたが、まわしを取って土俵際で相手を投げ捨てるというこれまでの貴乃花とは違う相撲で勝ち星を拾って優勝争いができたのだから、まずまずの場所ではなかったか。ただ、アナウンサーも新聞記者も「復活」という言葉を安易に使いすぎていたように思う。今場所の相撲は、本来の相撲ではない。千秋楽の投げなど、全盛時の貴乃花ならまず食わなかった。
 優勝の武蔵丸は、実力通りの相撲ではないか。安芸乃島、土佐ノ海、寺尾に敗れた相撲はいずれもスピード負けしていた。一気に出られると対処しきれないが、自分のペースになれば確実に勝てるというのが、今年の武蔵丸の特徴だろう。だから、大負けしないかわりに全勝もない。今年の4回の優勝は、相対的な強さと思う。しかし、安定した相撲ぶりは評価したいところではある。
 惜しくも優勝を逃した大関出島。11日目まで圧倒的な出足と勢いで、千秋楽まで突っ走ると思われたが、12日目から4連敗。前回の優勝は、最後までトップに立つことなく曙の自滅で勝ち取ったものだけに、今回は追われることによる優勝へのプレッシャーがあったのではないか。しかし、今回はいい経験をしたと思う。この経験が生きてくれば、来場所は優勝の可能性が高いと、そのように感じた。
 前半突っ走ったが終盤に息切れした土佐ノ海(殊勲賞)、尻上がりに調子を上げた魁皇(敢闘賞)と武双山。この3人に共通したのは勝ち相撲と負け相撲の落差の激しさ。勝つときは強いが負けるときはもろい。特に武双山の勝ち相撲は完璧といっていいものが多かった。ところが負けた相撲は全くいいところがない。まだ土佐ノ海は惜しいという負け方がある。今場所よかったから、来場所も期待できる、というところにまでいかないのがこの3人の共通点だろう。
 技能賞の栃東は、土佐ノ海戦で立ち合い変化したことでかなり批判された。これが響いたか、後半は立ち合いの思い切りのよさが影をひそめたのは残念。正直、栃東には安易な勝ち方はしてほしくないけれど、あれだけ闇雲につっこんでいった土佐ノ海にも問題はある。それだけ非難するのであれば、記者クラブは栃東に技能賞を与えてはいけなかったのではないか。非難するなら、最後まで貫くべし。前半の栃東は、大関近しと思わせる素晴らしい相撲だった。
 貴ノ浪が負け越して、大関の座から陥落することが決まった。休場明けという悪条件もあったが、引っ張り込んで墓穴を掘る相撲が目立ちすぎた。特にここ1年ほどは同じような相撲でやられていたにもかかわらず、それが直らなかったのだから、この結果も当然だったかもしれない。しかし、踏み込みさえよければ引っ張り込む相撲でも勝てる。来場所10勝すれば、再昇進できるが、鍵は立ち合いの踏み込みということになるだろう。
 あと気になったのは、時津海の立ち合い。両手をきっちり着くのはいいのだが、そのあとまるで猫だましのようにパチンと手を叩く。なんのために両手を着いているのか、意味がない。相撲のすじのいい力士だけに、変な癖は直さないとね。

 元小結舞の海の引退が決まった。「技のデパート」と呼ばれる多彩な相撲。八艘跳び、猫だまし、一歩後退など立ち合いに何をしてくるかわからない曲者として人気があった。こういう力士が土俵から去るのは、実に寂しい。記録よりも記憶に残る小兵力士であった。今後はタレントとして活動するとのことだが、民放でかつて蔵間がしていたような解説なんかもしてほしいな。

(1999年11月23日記)


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