大相撲小言場所


平成十二年初場所展望〜武蔵丸か貴乃花か〜

 今場所も若乃花は休場。来場所も出場が危ぶまれている。これは実に厳しい。客を呼べる一番の力士がずっと不在なのだ。
 先場所はレベルが高いとはいえなかったけれど、一応横綱の相星決戦、しかも序盤戦もたついていた貴乃花がなんとか千秋楽まで優勝争いをしたということで、辛うじて面目の保たれた場所であった。では今場所はどうか。
 優勝ラインが全勝ないしは14勝くらいになると、武蔵丸の連覇は厳しいだろう。この横綱は15日間のうち何日かエアポケットに入ったみたいにまるで何もできないまま負けてしまう日があるのだ。貴乃花は場所前に軽い怪我をしたそうだが、巡業では久々に土俵に上がって申し合いや三番稽古をしたというから、体調は一時よりもよくなっているのだろう。だから、腰高の不安はあるものの、先場所よりも安定した相撲を取るのではないかと思われる。そうなると、この横綱の集中力ならばほとんど取りこぼすことなく千秋楽までいく可能性がある。武蔵丸の昨年の活躍は相対的なものだと思う。絶対的な強さを感じないのだ。連覇をするためには15日間集中力を保ち続けること、これに尽きる。
 休場明けの曙だけれど、秋場所の滑り出しはよく、復活を思わせたところでのあっけない怪我でまた逆戻りとなった。場所前の稽古は意欲的だったというが、一場所勝ち抜くだけの稽古の貯金があるかどうか。苦手の貴闘力が下位に落ちてよほどのことがない限り対戦もないだろうから、少しは気が楽かもしれない。まあ、台風の目という感じだろう。
 実は、若い大関二人に優勝争いにかんでほしいのだが、むらっ気のある千代大海は取りこぼしがあるのでちょっと期待しにくいし、出島も意外にプレッシャーに弱いところを先場所露呈してしまった。大関で優勝するというのは、実はかなり難しいことなのだ。今場所も優勝候補の筆頭にはあげにくい。
 伏兵は栃東か。技巧的には申し分がなく、体力的な部分で終盤疲れが出て来さえしなければ、優勝と大関を狙えるのではないだろうか。大関というと魁皇が最短距離にいるのだが、これまではプレッシャーがかかるとかちかちになって実力の半分も出せなかった。先場所の序盤も同様だ。横綱審議委員の一力なる老人は、稽古場での魁皇を見て「年内に横綱に昇進する」などと戯言をいっていたようだが、横審の委員たる者が「稽古場大関」という言葉を知らないのだろうか。魁皇は稽古場では大関急の実力を発揮するのだ。それが本場所で出ないから未だ関脇にとどまっているのだ。こういう見識のない人物が先々場所負け越した若乃花に引退勧告をしたのだからあきれる。
 今場所注目したいのは、大関から陥落した貴ノ浪だ。10勝以上あげれば来場所は大関に復帰できる。過去、この特例で復帰したのは三重ノ海(現武蔵川親方)ただ一人。あと1勝で復帰を逃した大受(現朝日山親方)が勝ち越した他は、たいてい負け越している。力が落ちているから大関陥落ということになったわけで、10勝の壁は大きい。おそらく得意の引っぱり込みを意識的に封じるのだろうが、踏み込んで前に出、相手が反撃に転じたところを引っ張り込んで振り回すという形にもちこめば、勝機はある。得意技を封じてしまっては勝ち星にはつながるまい。実は貴ノ浪のへんちくりんな相撲、私は好きなのです。ああいう異能力士は大事にしなければと思うのだが、どうだろうか。

(2000年1月8日記)


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