大相撲小言場所


平成十二年春場所展望〜若乃花の進退は〜

 今場所最大の話題は、先場所優勝した武双山の大関昇進ということになるのだろう。先場所の優勝で大関に昇進しててもよかったと思うのだが。なんでも大関昇進の条件の目安として昇進前3場所で33勝すればよいらしい。そんな数字は内規としてどこにも決められてない。勝ち星よりも相撲内容を見てほしいものだ。先場所のような相撲を取れれば、武双山はまず文句なく大関になれるはず。場所前に風邪をひいて稽古が不十分と聞くが、勝ち星を追うのではなくしっかりと自分の相撲を取れば、大関は向こうから転がり込んでくるはずだ。だから、メディアは武双山が最初に少々負けたといっても「大関に黄信号」などと騒ぎたててほしくない。騒ぎたてるだろうけれど。
 巡業や場所前の稽古が充実していたのは、貴乃花と貴ノ浪だという。貴乃花は腰高さえ直れば優勝候補なのだ。この1年半ほどの貴乃花は稽古の貯金を吐き出したような相撲を取っていたが、徐々に復調している。今場所の優勝候補からははずせないだろう。
 貴ノ浪は無事大関復帰を果たしたけれど、先場所は横綱大関には勝てなかった。プレッシャーもあっただろう。今場所はそういったプレッシャーから解放されると考えられる。持ち前の大胆な相撲が取れれば、意外に勝つのではないだろうか。
 問題は曙と武蔵丸の両横綱。曙は八百長告発の直接の的で、先場所は告発以後がたがたと崩れていった。その影響が続いていれば、安定した相撲が取れないのではないか。疑惑を吹き飛ばすような曙らしい豪快な相撲を取ってほしい。武蔵丸は先場所の怪我が完治しているかどうかが鍵。思い切って休場したために順調に回復しているらしいが、怪我した方の手をかばうような相撲を取るようだと、ちょっとしたことで崩れる危険性をはらんでいる。それがなければもちろん優勝候補であることは間違いないが。
 入幕してきた頃の雑な相撲がかなり解消された雅山は、今場所も注目の的だ。勝てなかった上位陣にも勝てるようになってきた。しかし、先場所はいわば無欲の勝利。勝ち星を意識し始める今場所は、先場所のような思い切った相撲が取れるかどうか。
 出島と千代大海の両大関が早くも若年寄みたいな相撲になってきた。特にひどいのは千代大海。晩年の舛田山じゃないのだから、突っ張ってはたくの一点張りでは今場所も苦しかろう。両大関とも大関昇進前にあまり大騒ぎされなかった分、昇進してからプレッシャーに苦しんでいるという気がする。
 さて、若乃花である。横綱審議委員会の老人たちの休場勧告もものとせず、今場所の出場を決めた。どうも今場所に進退を賭けることになるらしい。横綱審議委員会の老人たちはどうしても若乃花をやめさせたいのか。負けてもいいから引退なんてしないでほしい。今、土俵を救えるのは若乃花しかいないと私は思っているのだ。大味な相撲が多い中で、技と力の相撲を取る第一人者として、若乃花はまだまだ欠かせない。
 もし八百長が横行しているとしたら、それは3場所で33勝しろだの負けがこんだら引退しろだのという周囲の雑音故だと私は思う。内容よりも勝ち星の数ばかり騒ぎたてるから、星のまわしあいをしたり勝ち星を金で買ったりするのだ。負け越しては何にもならないけれど、もっと相撲の面白さを語ることができないのか。そうでなければ、先場所の旭天鵬のように、千秋楽に勝てば敢闘賞という条件がついたときに、三賞ほしさに立ち合いに変化して勝つというようなつまらない相撲を取るのだ。
 若乃花はたとえまた負け越したとしても引退すべきではない。

(2000年3月11日記)


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