横綱曙の3年2ヶ月ぶりの優勝という形で終わった名古屋場所であったが、全体に低調であることは否めなかった。曙を除く横綱大関があまりにも無惨であったからである。曙の優勝はそれに助けられたといってもよいだろう。
曙は13日目に優勝を決めたものの、残り2日間は連敗。これが緊迫した優勝争いをしていたら、いつものように最後で逆転されるというパターンになっていたかもしれない。もっとも、今場所は相手によって立ち合いから突き放したり組み止めたりとよく考えた相撲を取っていたので、曙の相撲内容自体は評価すべきものではあった。はたかれたりいなされたりしても慌てずに自分の相撲を取ることができたのが勝因だ。順当な優勝といっていい。
貴乃花の休場は残念だった。腰高の欠点は解消されていなかったものの、勝った相撲は自分が不利な体勢でも慌てずにじっくりと対応していたからだ。後半調子が出てきたら優勝の可能性もあった。
休場明けの武蔵丸と武双山は最後まで自分の相撲を取ることができなかった。特に武双山はわずか4勝、2場所で大関陥落のワースト記録となった。大関昇進直前にかなり無理をして土俵に上がっていたつけだという。実力はこんなものではない。秋の巡業は休んでもいいから、怪我を治して秋場所に大関復帰を目指してほしい。
雅山は右肩の怪我がきつかったのだろう。右で上手をとっても引きつけられない。大関昇進時に時期尚早論が出たこともあるし、新大関での負け越しはそれを実証したような形になってしまった。
千代大海と出島はいずれもフタケタ勝ち星でそれなりに面目は保ったけれど、今場所も主役になることができなかった。千代大海の相撲は、彼らしい豪快な突き放しが出る日もかなりあったけれど、魁皇戦には立ち合いに変化して勝ってみたり、隆乃若戦は待ったと勘違いして行司が「残った」と言っているのにもかかわらず力を抜いて自滅してみたり。もっと立ち合いを大事にしてもらいたかった。それに比べると出島は内容的には千代大海よりもよかった。ただ、古傷が治りきっていないのか、ひかれて落ちるシーンがままあったのが気になる。何よりも存在感の薄さはどうしたことか。
さて、今場所注目された魁皇の大関昇進であるが、11勝をあげ、まずは昇進確実となった。今場所は右上手にこだわらず、まわしが取れなくても積極的に前に出ていった点が評価できる。これまでの実績も加味すれば、とっくに大関に昇進していておかしくない力士だけに、私も今回の大関昇進に異論はない。
続く大関候補は栃東。技能賞を獲得したことからもわかるように、本来の基本に忠実な相撲で12勝。勝ち星ほしさに立ち合い跳んだりはねたりすることもなく、自力のあるところを見せてくれた。この相撲が来場所も取れれば、年内の大関昇進は文句なしだろう。
上位では負け越したけれど栃乃花がよかった。連日の上位との対戦も真っ向から向かっていき、善戦した。経験を積めば近い将来大関候補として名前が挙がる日も来るのではないか。
敢闘賞は新入幕の2人、高見盛と安美錦。安美錦は場所前に書いたように、持ち前の技能相撲が幕内でも通用して堂々の10勝だ。絶えず技を仕掛けて相手を崩す相撲は久々に「業師」を感じさせる。それでいてケレン味がないところがいい。高見盛は不思議な相撲を取る。とにかく左を差したらまわしを取ろうが取るまいが、きれいに相手をすくって崩すのだ。個性派の脇役として上位を刺激するタイプになりそう。実際、彼の活躍が兄弟子の曙を刺激したといえるしね。
個人的には金開山が6回目の入幕で初めて勝ち越したことが嬉しかった。地味ながら、手を抜かない相撲が好きなのだ。こういうタイプの力士に脚光が当たる日がいつか来るはず。
十両優勝の若の里は余裕の取り口。故障も癒えて、本来の力を発揮できるようになってきた。もともとは幕内上位で取るべき力士。兄弟弟子の隆乃若とともに上位をかき回す活躍を一日も早く見たいものである。
今場所は水戸泉の婚約破棄騒動や双子山親方夫人の不倫騒動など、土俵外での話題が目立った。土俵内容が充実していれば、そんなことが話題になることはなかったはず。これが今の相撲の現状だとしたら、実に寂しい。現役力士よりも引退した藤島親方(もと若乃花)、舞の海、KONISHIKIの方がテレビで引っ張りだこという事実を相撲協会はどう見るのだろうか。
(2000年7月23日記)