大相撲小言場所


九州場所をふりかえって〜まきおこる琴光喜旋風〜

 いやいやおそれいりました。琴光喜の攻めの速さ。実は私は先場所の直後「それ以外で目立った力士は十両優勝の琴光喜くらいか。出足の良さと決して止まらない攻めで14勝。来場所の再入幕は確実で、心配なのは怪我の再発だけである」と書いている。自分がそういうことを書いたのも忘れていて場所前の展望では一切彼に触れていない。自分の不明を恥じるのみ。今場所も先場所と同様スピード感のある相撲で前半から突っ走り、武蔵丸、出島、雅山、武双山と1横綱3大関を撃破。唯一敗れた貴乃花戦も、徹頭徹尾攻め切って最後に逆転された惜しい負け。殊勲、敢闘、技能の三賞を独占したのも当然のことだ。再入幕と書いたけれど、新入幕の場所は全休で実質的には新入幕。この勢い、どこまで続くのか。また楽しみな若手の登場である。
 その琴光喜の追撃から逃げ切ったのは曙。今年2度目の優勝は、完全復活と見ていい。14勝1敗。唯一の敗戦は3日目の若の里戦。この一番だけは悪い時の曙の相撲で足が出ず前に落ちた。しかしそれ以外は出足が良く、引かれてもあわてず相手をつかまえ、あるいは突き放した万全の形となっていた。千秋楽の武蔵丸戦は、優勝目前で緊張しておどおどしていた昨年の曙とは違った。気迫のみなぎった顔つきをしていて、ああいう表情の時は勝てるのだ。久しぶりに六場所皆勤し、年間最多勝にも輝いた。今場所の曙なら、琴光喜と当たっていても敵とはしなかっただろう。しかし、大関戦を一つつぶしてもいいから琴光喜と直接対戦させるべきではなったか。その点だけがちょっと残念。
 前半突っ走ったのは貴乃花。しかし、休場明けでスタミナ不足。攻めの形はよいが、相手に一気に出られるとあっけなかった。勝っている時も腰高だと感じたが、その弱点が横綱や大関との対戦ではもろに出てしまった。しかし、休場明けの11勝は及第点。来年こそ復活の優勝が期待できそう。怪我さえなければ、だが。
 武蔵丸と魁皇はなんとか11勝をあげて面目を保ったけれども、相撲の内容はそれほどよくなく、曙や琴光喜をストップさせられるだけのものにはならなかった。二人ともなんであんな雑な相撲をとるかな。最も象徴的なのはこの二人の対戦で、無防備に後ろから覆いかぶさる武蔵丸を魁皇が一本背負い。横綱大関の対戦でこんな奇手が出ること自体、恥ずかしいことではないだろうか。
 あとの4大関はみんなそろって9勝6敗。琴光喜に対してなすすべもなく敗れた武蔵川部屋の3大関の情けなさよ。故障が治り切ってないのか武双山。前半は勢いで8連勝しながら後半は雑な相撲で墓穴を掘り1勝しかあげられなかった雅山。女性スキャンダルで動揺したのか出島。結局引き癖が抜け切れてないぞ千代大海。場所前、次の横綱に近いのは誰かと書いたのに、こんなことでいいのか。まあこれだけ大関がいたら全員10勝以上というわけにもいくまいが、5人中1人しか10勝以上できてない現状は、やはり寂しい。
 残念だなあ、追風海と栃乃花。怪我は怖いね。追風海なんか千代大海や武双山を得意の上手をとる形で下して後半に期待がもてたのに、途中休場。栃乃花は左足のふくらはぎに大きく巻かれたサポーターが痛々しかった。踏みとどまれないのだ。いい形で攻めていても逆転を食らうことが多かった。ほんと、怪我は怖い。
 その怪我からみごと這い上がってきた若の里は、曙に唯一の黒星をつける活躍で殊勲賞。前半はその勝ち星のみの1勝6敗。ところが後半思い切りのいい攻めで8連勝したのだから、おそれいる。力がついてくる時の若手は何がきっかけで化けるかわからない。今場所の若の里なんか、いい例じゃないかな。もう少し腰をおろしてじっくり構える場面があってもよいと思うが。
 あと一人、栃乃洋の名をあげておこう。怪我が治ったのか、いい時の粘り強さに加えて積極的な相撲が目立った。中盤5連勝した時の相撲などは三役に駆け上がっていった頃よりもいい内容だった。
 十両優勝は逃したものの来場所の新入幕が有望な朝青龍はきびきびした突き押しの威力が光る。モンゴル勢の先輩たちがちょっともたついている。来場所は一気に抜き去るかもしれないぞ。
 とにかく、今場所は琴光喜に尽きる。曙の優勝がかすんでしまうほど。大関たちよ、こんなことでいいのか。ふがいないとは思わんか。

 地元出身ということで魁皇への声援がすごかったけれど、子どもたちの団体が「カイオー、カイオー」と声をそろえてコールするのだけは耐え切れない。制限時間いっぱいになってもやめない。誰か大人たちが注意しろよ。野球場ではないのだ。あれは、いかん。

 いかんといえば、NHK。12日目の時津海−栃栄戦は、制限時間前の立ち会いで時津海が栃栄を引き落とした。その時、画面は向正面の解説者、北陣親方を写していて画面が土俵に切り替わった時には勝負がついていた。それなのにリプレイもなし。時間前に力士が立たないとたかをくくっていたか。ビデオをまわしていなかったのだろうか。もしそれならば、怠慢のそしりを免れ得まい。

 最後に退職者について。
 第三十代式守伊之助親方が今場所限りで定年退職。式守勘太夫時代が長かったが、先代の伊之助親方より裁きもうまく立ち姿が良く、いい行司さんであった。立行司の期間が短く伊之助よりも勘太夫でのイメージが強いのは気の毒。お疲れ様でした。
 呼び出し長八さんも定年。呼び声は今一つだったけれど、所作は現役では最も粋な感じのする呼び出しさん。こういう味のある見栄えの人は若手ではあまりいないなあ。お疲れ様でした。

(2000年11月19日記)


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