場所前に「大関の意地を見せてほしい」と書いたが、今場所の魁皇と武双山はまさにその通りの相撲をとってくれた。優勝は魁皇。初日から12連勝。力任せの強引な相撲や、立ち会い失敗して相手の手をたぐったりと必ずしも内容的には万全とはいえなかったと思うし、武蔵丸と貴乃花に敗れた相撲はその内容の悪さが結果に結びついたという感じだったが、荒削りでもとにかく相手を力で持っていく迫力があった。千秋楽、優勝を賭けた武双山との一番で見せた強烈なおっつけはなにがなんでも勝つのだという執念が相手を上回った相撲ではなかったか。
一方、武双山は序盤の旭天鵬や中盤の栃東戦などで踏み込みが足りなく敗れる相撲もあったけれど、それ以外は持ち味の出足を十分にきかせ立ち会いから相手を一気に持っていく自分の相撲を取り切った。特に貴乃花戦での踏み込みと出足は完璧。毎場所コンスタントにこういう相撲をとっていってくれればと思う。大関昇進後初の2ケタ勝ち星が準優勝。これも評価したい。
残念なのは出島と雅山で、出島は38度の発熱をおしての出場、雅山は腕を傷めているという事情もあったようだが、それにしてももろすぎる。出島は千秋楽になんとか勝ち越して大関の座を維持した。勝った相撲と負けた相撲の落差が激しい。雅山は負け越して来場所は2度目のカド番となる。こちらはこわごわ相撲を取っているという感じで、迫力に欠ける。雑でも前に出ていく相撲が持ち味なのだから、徹底してほしかった。
両横綱は悪くはなかった。貴乃花は最後まで優勝争いに残ったのだし、武蔵丸も早々と3敗したものの横綱対決では貴乃花を一方的に下してその強さを見せた。ただ、貴乃花は栃乃洋戦のように相手に中に入られて防戦一方となった時に残す腰がなく、武蔵丸は千代天山戦のように強引に前に出ていって墓穴を掘った。ともに本来の力を出し切ってはいなかった場所のように思う。とはいえ、最後まで存在感を見せつけたあたりはさすがである。
殊勲賞は栃東と栃乃洋。栃東は前半は自分の形に持っていくことができず苦戦したけれど、出島にいい形で勝ってからははずみがついたかうまさを感じさせる相撲を見せた。特に武蔵丸を倒した相撲ではうまく相手の中に入って相手に相撲を取らせなかった。強烈なおっつけで相手を浮き上がらせる力強さは見せられなかったが、悪いなりにちゃんと結果を残す地力はたいしたもの。栃乃洋は先場所までのような出足のよい相撲は少なく本調子ではなかったけれど、貴乃花を一気に寄り切った一番が光る。
敢闘賞の玉乃島は改名効果というのだろうか、先場所までのもたもたした相撲は影をひそめ、左四つから一気に出る相撲が素晴らしかった。さすがに初挑戦となった大関戦では魁皇や武双山といったところに歯が立たなかったけれど。技能賞の琴光喜は先場所の経験を生かして持ち味である速さとうまさのミックスされた相撲を取った。特に中盤、雅山、出島、武蔵丸と連破した相撲は九州場所の快進撃を思い出させた。
他に目についたのは、惜しくも三賞は逃したが気持ちのよい突き押しと粘り腰で上位初挑戦でも自分の相撲を取り切った朝青龍、負け越しはしたが終盤得意の黙々と出る相撲を取った和歌乃山あたりだ。残念なのは若の里と隆乃若の鳴戸部屋コンビの雑な相撲。若の里は腰高で強引に出ていったところを相手に密着されて敗れるパターン、隆乃若は強引な投げ技で墓穴を掘るパターンが多く見られた。もっと一番一番を大切にとってほしいものだ。
寺尾は勝ち越し。さすがに終盤は息切れしたけれど、序盤の相撲は往年の突っ張りを彷佛とさせた。館内の声援が一番大きかったのはこの人ではなかったか。
春場所だけはまだ満員御礼が途切れることなく続いている。それに応えるような熱戦が多く見られた場所で、千秋楽まで誰が優勝してもおかしくないといういい展開だった。毎場所こういう雰囲気が続けば、相撲人気も少しずつ回復するのでは、と思う。
立行司の二十九代木村庄之助親方が今場所限りで定年退職。差し違えの少ないきっちりした裁きをする行司さんで、なんと立行司に昇進してから6年間、一番も差し違えがなかったというから立派なもの。立ち居振る舞いの風格よりも、審判役として傑出していた行司さんであった。確か式守伊之助を継ぐ前の錦太夫時代、善之輔(先々代伊之助)、勘太夫(先代伊之助)と三人で立行司になるのを試されたことがあったけれど、その間一度も差し違えがなく文句なしに伊之助に昇格した。いかにも庄之助親方らしいではないか。長い間、お疲れさまでした。
(2001年3月25日記)