大相撲小言場所


九州場所をふりかえって〜栃東大関へ〜

 武蔵丸が14日目に9回目の優勝を決めた。先場所もそうだが、千秋楽を待たずに優勝というのはどうも盛り上がりに欠ける。上位陣が安定した成績を残していないからだろう。
 武蔵丸の相撲はここ数場所に見られないおちついたもので、大きな体で相手をおさえこんではさみつけ、反撃をゆるさない。持ち味を十分に生かした相撲だった。だから、大善や魁皇に敗れた相撲のように相手と密着できなかった相撲はもろさを感じさせた。栃東戦のように新潮に相手の動きをよく見て相撲をとれば確実に勝てるという感じがした。年間最多勝も記録し、横綱の面目を保ったといえるだろう。
 最後まで優勝を争ったのは栃東。今場所は立ち合いの変化もなく、左上手をすばやくとり、右からおっつけて寄るという形を作ることができた。優勝を意識しはじめた中盤から動きが硬くなった。闘牙と魁皇に敗れた相撲がそう。それでも12勝をあげて準優勝の星は立派。大関昇進は間違いないし、若乃花以来の技能派大関となるのも嬉しいところだ。
 一方、大関候補として注目された琴光喜は先場所の無欲の勝利とちがいかなり「勝ち」を意識してしまった。立ち合いの踏みこみが浅く、相手を呼びこんでしまってはそうそう勝てない。武双山、朝青龍との相撲に本来のスピード感のある攻めが見られたのみ。それでも9勝したのだから、今場所の経験を生かして来場所以降の成長に期待したい。
 若の里は序盤に4連敗しながらも7日目から9連勝して敢闘賞を受賞。ただ、馬力相撲の感は否めず、がっちりと腰を下ろして上手を引き確実に攻めるという形ができているわけではない。馬力と勢いだけでは今場所の好成績が今後に生きるかどうか。
 朝青龍の気合いのはいった相撲は今場所も健在。張ってよし組んでよしという相撲で館内をわかせた。激しい張り手ばかりが目立つが、組んだときの攻めなどにうまさがあるのは強みだ。まだ大関という感じではないけれど、近い将来その座を狙えるという感触を与えた場所になった。
 海鵬と玉乃島はともに負け越したものの、勝った相撲にはそれぞれの持ち味である自分の型になったときの強さを見せた。負けがこんだときにどう相撲を建て直すことができるかが今後の課題。さらに上を目指すにはそこを克服していかなければならないだろう。
 前半戦を引っぱったのは元大関の貴ノ浪。相手を上からかかえこんでふりまわし、あるいは外掛け。これが面白いように決まった。追風海を休場においこんだ外掛けは圧巻だった。上位とあたったときに往年の強さが見られずずるずると負けてしまったのは残念。それでも貴ノ浪健在を印象づけてくれた。
 初日から8連勝と快調だった追風海が上記の一番で靭帯を損傷して休場したのは残念だった。もともと実力のある力士だけに後半戦の上位との対戦で土俵をわかせてくれるものと期待していたのに。追風海の課題は怪我の多さ。まわしをとったときにそっくりかえる悪癖があるが、それも原因のひとつか。
 三賞候補には上がらなかったけれど、旭鷲山の活躍も特筆しておきたい。一時のサーカス相撲は少なくなり、正攻法でも勝てるようになってきた。上位とあたるとあえてサーカス相撲をとりたがるのが悪い癖。来場所も今場所のような積極的に前に出る相撲をとってほしい。
 新入幕の武雄山は10勝をあげて敢闘賞。愚直に押す地味な相撲だが、その愚直さが貴重だ。
 最後に、二人の大関について。カド番の魁皇は中盤腰に疲れがでたか連敗して勝ち越しも危ういかと思われたが、栃東に勝ったあたりから思い切った攻めがよみがえり、なんと10勝をあげた。場所前は出場も危ぶまれただけに、これは驚き。勝ち星は最良の薬とはよくいったものだ。逆に武双山は勝った相撲と負けた相撲の落差が激しく予想外の9勝止まりに終わった。腰の具合はよくないのだろう。攻めているときはよいが、いったん受けにまわるとあっけなく土俵を割る場面が見られた。両力士とも腰に爆弾を抱えているだけに、とにかく攻めの一手で来場所こそ大関の面目を保ってほしいものだ。
 とにかく、相拮抗した力の力士が千秋楽まで優勝を争うのが理想。来年はすべての場所でそのような形になってほしいものである。

(2001年11月25日記)


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