大相撲小言場所


平成十四年夏場所展望〜貴乃花休場に思う〜

 横綱貴乃花は今場所も休場。とうとう6場所連続休場という記録を作ることになった。これに対し、引退覚悟で土俵にあがるべしという意見と完全に体調が戻るまで休場すべきだという意見が相半ばしている。
 これについて、私の考えは後者である。1年前の夏場所、本割で全く力を出さずに負け、優勝決定戦で鬼のような形相で武蔵丸を下した。あの一番は、いわば土俵生命そのものを賭けたものであったはずだ。もし、あの相撲で敗れていたら、即引退発表していたかもしれないと、今になって思うほどの相撲だった。しかし、貴乃花は勝ち、引退はせず、フランスで手術を受け、再起を期している。ならば、次に本場所の土俵にあがる時は、あの一番の続きからでなくてはならない。あの一番で武蔵丸が受けた打撃を考えると、そう簡単に引退してほしくないのだ。武蔵丸は立ち直るまでに、数場所を要した。私は、あの一番の影響が大きかったと、今でも考える。
 貴乃花は、かけがえのない存在なのだ。大関から横綱に登り詰めるころの貴乃花の相撲は、完璧を目指してその一歩手前、いや、場合によっては瞬間的に完璧を超えるところにさしかかっていたと私は思っている。貴乃花が上手をとっただけで相手は何もできなくなる。まるで魔法のような強さがあった。
 それからあとの貴乃花は、無駄に体重を増やしたり、あるいは体調を崩したり、家庭的なトラブルがあったりで完璧な横綱にはなれなかった。しかし、その存在感はいまだに他を圧倒する。貴乃花が控えに入って土俵を見上げているだけで、場の雰囲気が違う。栃東も琴光喜も若の里も隆乃若も朝青龍も全て、貴乃花を倒してからでないと横綱になってはいけないとさえ思うのである。
 貴乃花は二人はいない。1年前の夏場所でのあの相撲で燃え尽きたのならともかく、本人には再び完璧を目指して進む意志があるようである。それなのに、もしここで無理矢理出場させて引退を余儀無くさせられるようにし向けてしまった時、相撲界全体が立ち直れなくなるおそれだってあるのである。なんであの時に無理に出場させたのだと悔やむことになってからでは遅いのだ。
 だから、今場所は休場し、あの完璧を目指していた時の貴乃花に戻ってから再び本場所の土俵に立ってほしいのである。

 今場所も武蔵丸を中心に、栃東や魁皇が優勝を争うという展開になることが予想される。カド番を迎えた千代大海も必死になっ相手をしとめにかかるだろう。武蔵丸以外の力士が優勝した場合、翌場所に横綱や大関昇進という話も持ち上がるだろう。そして、そこに再起を賭けた貴乃花が立ちはだかる。名古屋場所を面白くするもしないも、この夏場所の大関、関脇陣の活躍にかかっているのだ。そういう意味では、今場所は目玉となるものはないかもしれないが、翌場所以降のことを考えるとかなり重要な意味を持つといっていいかもしれないのである。

(2002年5月11日記)


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