大相撲小言場所


秋場所をふりかえって〜不死鳥貴乃花を武蔵丸が下す〜

 今場所は貴乃花につきた。相撲に何の愛情もない横綱審議委員長の申し渡した「出場し、12勝あげないと引退だ」という馬鹿げた勧告のおかげで完治しない右足をかばいながらの土俵。それても序盤戦を2敗で切り抜けると完全に相撲勘を取り戻したか好調の大関陣にも力を出させなかった。もっとも千代大海は立ち合いの圧力を危険と感じたか珍しく立ち合いの変化を見せたが。そして、2敗のまま千秋楽に横綱同士の優勝決戦を迎える。武蔵丸は昨年の夏場所には取れなかった思い切った相撲で貴乃花を圧倒、みごとな優勝である。
 これでよかったのだと思う。1年以上休場しやっとのことで復帰してきた貴乃花に、この1年を一人横綱の重責に耐えてきた武蔵丸が敗れるようなことがあっては、情けないばかりである。武蔵丸はあの決定戦以来ずっと「心が痛かったね」と優勝インタビューで答えていた。武蔵丸はこれで来場所以降、心置きなく自分の相撲がとれることだろう。
 土俵を盛り上げたのは4人の大関である。10日目まで全員が1〜2敗を保ち、優勝争いに加わっていた。それ以降は上位陣の勝ち抜き戦ということになり、体調が戻りきっていなかった武双山が脱落、なんとか勝ち越したにとどまった。それでも休場明けということを割り引いたらよく頑張ったのではないか。千代大海は貴乃花に敗れてリズムが乱れたか武蔵丸にも馬力負けして11勝におわり、横綱昇進はならなかった。それでもつい引いてしまった朝青龍戦を除いては立ち合いから一気にもっていくいい相撲をとった。休場明けでも武蔵丸にも勝って最後まで優勝争いにからんだ魁皇は立派であった。右上手を取る自分の型をもっているのが強みだろう。新大関で10勝をあげた朝青龍も、初日から8連勝するなどして場所を引っぱった。両横綱に連敗して気持ちが切れたか終盤4連敗したが、新大関のプレッシャーを考えると合格点だろう。
 関脇以下では12勝をあげて敢闘賞を受賞した琴光喜が優勝した頃の相撲を思わせる速攻で復活した。顎の怪我で休場し、再出場した場所での負け越しと度重なる試練をくぐり抜けてきただけに、このまま一気に大関を目指すだけの精神的な強さも身につけたのではないか。
 他には、負け越しはしたが初日に武蔵丸を持ち味の逆転相撲で下した貴ノ浪、敢闘賞は逃したが常に前に出る相撲が光った玉春日、幕下まで落ちながら再入幕した五城楼の気迫溢れる相撲が印象に残った。
 とにかく今場所は貴乃花。彼が出場しただけで他の力士の相撲も引き締まったように感じられた。両横綱がそろうということの重みを感じさせたのである。貴乃花は不死鳥のように蘇った。しかし、貴乃花の相撲人生は今場所で終わったわけではない。今場所重ねた無理が来場所に響いてはなんにもならない。来場所もまた千秋楽横綱決戦を見せてもらいたい。

 引退力士は3人。
 もと幕内、湊富士は幕下まで陥落しながら踏ん張っていたが、力つきた。相手の力を吸収するような柔らかい相撲が持ち味。そのつかみどころのない取り口が印象的だった。
 もと関脇、貴闘力は12日目の寺尾戦でお互いに全盛時を思わせる迫力ある突き合いを見せて最後の力を出し切った。常に闘志を全面に押し出した相撲だった。体も大きくなく、相撲もそう器用ではない。そんな貴闘力が幕内優勝にも輝くことができたのは、藤島部屋の激しい稽古で鍛えられた底力だったのだろう。今後は大鵬親方の後継者となりいずれ大嶽部屋を率いることになる。藤島部屋に劣らない猛稽古で弟子を育成していってほしい。
 もと関脇、寺尾は千秋楽まで取り切った。39歳まで現役を続けた「鉄人」だが、入幕当初は迫力のある突っ張りで場内をわかせた。回転の早さときびきびした動きは、近年見られる喧嘩腰の張り手とは違うすばらしい「技」であった。実兄逆鉾と同時三賞、同時関脇。相撲史上に残る人気力士の一人であった。
 みなさん、お疲れさまでした。そして、すばらしい相撲を見せてくれて、ありがとうございました。

(2002年9月22日記)


目次に戻る

ホームページに戻る