復活を期して出場した横綱武蔵丸だったが、7日目に土佐ノ海に腕をたぐられてもろくも土俵を割ると、その日のうちに引退を表明。幕内最高優勝12回(歴代6位)連続勝ち越し55場所(歴代1位)の記録を持つ強剛力士も、左手首の怪我には勝てなかった。武蔵丸は貴乃花が休場を重ねていた頃、一人横綱として土俵を守り続けた。武蔵丸がいたからこそ横綱の権威は守られたといえるだろう。貴乃花引退でいよいよ本格的に武蔵丸の時代が来るかと思われたが、残念ながらそれとほぼ同時に休場を続けるということになってしまった。今後は武蔵丸親方として後進の指導にあたる。14日目にぶっちぎりで優勝を決めながら千秋楽にはもろくも敗れるというギャップ、インタビューでのとぼけた受け答え。曙と若乃花、貴乃花の陰に隠れたような印象を残した横綱だったが、その実力はA級だった。
優勝争いをリードしたのは栃東だった。私は不明を恥じなけばならない。場所前の予想では優勝候補として全く名前を上げていなかったからだ。しかし、故障から完全回復したのだろう、安定した下半身に得意の右おっつけがきき、圧力のある寄りで相手を圧倒した。相手の引きに乗じて一気に寄り切る。11日目に喫した初黒星こそ、土佐ノ海に当たり負けした一方的なものだったが、13日目の千代大海からの黒星は前に出たところをうまく逃げられたものであり、全体に力強い攻めが復活した。
追い上げたのは朝青龍。左肘に不安があり、本来の相撲をとり切ることができなかったが、スピードと技の切れで、12日目には1敗で栃東に追いついた。しかし、13日目、目の前で栃東が敗れると、トップを意識したのか魁皇に突き落とされて再び2敗で並ぶ。そして、異例のワリで本来ならば千秋楽の相手は千代大海のはずだったが、千秋楽に相星決戦。両者、出足よく差し手争いから目の離せない攻防を繰り返したが、栃東の圧力に負けた朝青龍が引くところをつけいり、栃東の押し出しで勝負が決まった。昨年初場所、新大関での優勝以来、11場所ぶりの優勝であった。
千代大海は迫力が全体に不足していて終盤の横綱大関戦で連敗し、10勝止まり。カド番の魁皇は場所前に痛めた尾てい骨の影響で序盤から中盤にかけてははたき込みなどで星を稼いだけれど、終盤の横綱大関戦では体が動くようになり、朝青龍戦で見せた攻めの強さは実力を見せたものだったと言える。10勝したのは立派。おなじくカド番の武双山は腰痛で十分に動けなかったものの、序盤はいい動きで白星を重ね、14日目に勝ち越してカド番を脱出した。
殊勲賞の土佐ノ海は久々に引かれてもばったりと落ちることのない相撲。栃乃洋は両横綱を破ったことが評価されて殊勲賞。敢闘賞の玉乃島は一番いい時にまでは戻っていないけれど、左差しの型にうまく持ち込んで10勝をあげた。
平幕で最後まで優勝争いに顔を出した出島は幕尻まで落ちて11勝。全盛時を彷佛とさせる出足、怒涛の寄りで元大関の存在感を示した。ほかに目についたのは強力な突っ張りで7日目まで勝ちっ放しの活躍を見せた北勝力だ。十両優勝の黒海も悪い引き癖を封印し、徹頭徹尾前に出る相撲で14勝をあげた。
逆に期待外れだったのは琴光喜。中盤の7連敗はまるで相撲をとれていない状態。重い腰の相撲が全くとれなかった旭天鵬ら。
やはり千秋楽に優勝がかるという展開こそ、今場所を盛り上げたと言っていいだろう。
元幕内の蒼樹山、戦闘竜が引退を発表。特に蒼樹山は時々大物食いをしてインタビュールームでにこやかな笑顔を見せた。その表情が忘れられない。とにかくひたすら突き押しに徹して館内をわかせた2人の引退は寂しい限りだ。
(2003年11月23日記)