大相撲小言場所


平成十六年初場所展望〜横綱の地位…揺らぐ朝青龍、狙う栃東〜

 武蔵丸の引退で、番付では横綱が朝青龍一人となった。それだけ重責が朝青龍の双肩にかかってくることになる。ところが、その朝青龍の評判が場所前になってかなり悪くなってきた。先代高砂親方の葬儀に出なかった(ちゃんと奥さんが代理で出ている)、師匠に連絡をとらずに稽古を休んだ、横綱審議委員会の総見稽古を休んだ(こちらは体調不良を理由に届け出をしている)などなど。
 横綱の昇進基準には「品格力量抜群につき」という文言が明文化されている。朝青龍の場合、この「品格」の部分が問われているわけだ。これまでは、旭鷲山との確執など朝青龍だけの問題にはできないところで「品格」を問われていたが、今回はそればかりではないようで、師匠の言うことを軽んじているという風評もあり、本人の自覚が問題になっているというわけだ。
 これに関しては、遊牧民族のモンゴル文化と、農耕民族の日本文化の違いなのかなと思ってしまう。もし、朝青龍にとって「強い」ということが全ての価値基準となっているとしたら、大関止まりであった元朝潮の高砂親方は横綱である自分よりも値打ちが下ということになる。大相撲はその儀式の由来どれをとっても農耕と切り離せない。強いだけではなく、どっしり土地に根をはるような人物像が理想となるわけだ。実際、神格化されている双葉山のイメージがそうである。貴乃花もそれを目指していた。
 そう考えると、朝青龍にそういう理想を求めるべきではなかろう。文化の違いを乗り越えて横綱にまで昇進した、というけれど、文化の違いなど、そう簡単に乗り越えられるものではない。もっとも、曙や武蔵丸などはそのあたりのことをよく理解した上で相撲に取り組んでいたように思えるが。朝青龍なりに理解しようとしてはいるのだろうし、努力もしているのだろう。それが目に見えてこないというところが気の毒ではある。それだけ横綱という存在は特別なものなのだ。
 その横綱の地位を狙う位置にあるのが栃東だ。場所前の稽古も十分にできているという報道もある。先場所はいわば無欲の優勝。今場所に、その精神力が試される。朝青龍が昇進した時は貴乃花の長期休場など強敵が不在であるという幸運もあった。しかし、栃東には朝青龍という壁がある。西の横綱が空位であるという条件のよさもあるので、それを追い風にして序盤を乗り切れば、昇進の可能性は十分にある。とにかく自分の相撲、おっつけて相手の腰を浮かせ横から揺さぶる、そこに集中してほしい。
 優勝争いにからむのは魁皇、千代大海あたりか。先場所、大関を狙ったが負け越した若の里も巻き返しが期待できるし、全盛期に戻りつつある出島や新入幕のグルジア出身である黒海や先場所大崩れした琴光喜などが活躍を期待したい顔ぶれである。
 場所後、新横綱が誕生するのか。目の離せない場所になりそうだ。

(2004年10月10日記)


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