大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜朝青龍、初の全勝〜

 場所前から相撲に対する姿勢をうんぬんされていた朝青龍が、土俵で答えを出した。圧倒的な15日間だった。速さとうまさを兼ね備え闘志を全面に出すというスタイルが、今場所は特に際立っていた。優勝を決定した14日目の千代大海戦、下半身は微動だにせず、逆に攻め込んでいった千代大海の方の腰ががたがたと揺れているのを見た時に、その力量の差を思い知らされた。勝負が決した後、横綱はあどけない笑顔を満面に浮かべた。勝負の前の気合いの入り方との落差。この感情を隠さないところに朝青龍の魅力がある。求道者タイプの貴乃花とは好対照だ。そして、朝青龍は貴乃花を真似る必要はない。貴乃花最後の優勝の「鬼」の表情と、今場所の朝青龍の無垢な笑顔。どちらも記憶に残る一瞬である。
 横綱を狙った栃東は、初日硬くなって若の里にあっけない敗戦。しかし、これで気持ちが切り替わったか、2日目からは先場所を思い出させるいい相撲が続いた。ところが、9日目、高見盛との一番で気持ちだけが前に出て土俵際で突き落とされてから、相撲が変わった。相撲は「心・技・体」または「心・気・体」が揃って最高の強さが出るといわれるが、その「心」あるいは「気」がもろくも崩れた。私は場所前に「序盤を乗り越えれば」と書いたが、序盤を乗り越えたことで逆に中盤にスキが出たか。気力の持続の難しさを感じさせた。もちろん、この経験を生かして、次のチャンスには栄冠を勝ち取ってほしい。それができる大関だと思うから。
 千代大海は序盤の土佐ノ海戦などで引いてはやられる悪癖が出て、そのムラッ気も災いし、10勝止まり。魁皇は例によって強引さが裏目に出て敗れる相撲が目立ち、結局10勝で終る。大関の勝ち越しは10勝と言われるから、最低限の義務は果たしたと言えるわけだが、朝青龍の相撲の前にまるで歯がたたないあたり、独走を許した責任は大きい。場所前から好調を持続していた武双山は途中休場。もっとも、その時点で喫した3敗はいずれも詰めの甘さから来るものだっただけに、若いころのがむしゃらな相撲からの転換が望まれるといっていい。
 敢闘賞は琴光喜。先場所の前半戦の力の入らない状態から脱し、差し身もよく、スピード感もあった。10日目、朝青龍に吊り落としで敗れるという屈辱はあったものの、初優勝以来という13勝は内容ともども大関候補復活の出発点となるものだろう。一時は虚ろな表情が続いていたが、今場所は生気が戻っていた。
 技能賞の垣添は中に入っての小気味よい突き押しで11勝。体は小さいが、今後、琴錦、北勝海タイプの力士に成長する期待感を持たせた。
 元大関の雅山、出島もそろってフタケタ勝利。特に出島の出足は場所ごとに鋭さを増している。雅山が勝ちはしているが鋭さを欠くのに対し、出島は自分の相撲を取り切っている。琴光喜に続く復活が来場所も期待される。
 新入幕の黒海は8勝に終ったが、引き技がなくなり、前に出る積極的な相撲で館内をわかせた。貴ノ浪ら元大関にはまだ歯が立たなかったが、こうやって関門にぶちあたったことが今後の黒海の相撲にいい経験として蓄積されることだろう。
 優勝争いは朝青龍の独走に終ったが、全体としては土俵際の攻防の多い場所で、見ごたえはあった。内容的には楽しく見られる場所だったといえる。

 元小結の小城錦が引退。小兵だが、鋭い出足と前裁きのうまさで三役定着も期待された。怪我もあってその持ち味を開花させるには至らなかったが、きびきびとした動きが記憶に残る技能派力士だった。長い間、お疲れ様でした。

(2004年1月25日記)


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