大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜朝青龍4連覇、栃東大関復帰へ〜

 結局、終ってみれば朝青龍。ただ、これまでの場所とは違い隙も多かった。磐石という感じではないのに、そこにつけこめないで優勝を許した他の力士たちのふがいなさが印象に残る。また、要所要所では着実に勝っていった朝青龍の勝負師としての強さがものをいったというところか。もっとも、今場所は運も味方した。8日目の琴ノ若戦、左からの思い切った投げに裏返され、相手のまわしにしがみつくような体勢となった。琴ノ若は勝負が決したと思い、かばい手をつく。庄之助も朝青龍を死に体と見て軍配を琴ノ若にあげる。ところが、物言いがついて取り直しとなり、そうなると同じ手は二度とくわないのが横綱。切り返しで白星を手にした。私は、あの一番は朝青龍の死に体であると思う。あのまま琴ノ若が覆いかぶさっていたら、いくら体の柔らかい朝青龍でも怪我をしていただろう。審判員の判断には疑問を持たざるを得ない。あの一番が軍配通りであれば、その後の展開も違っていたはずだ。11日目の栃東戦は、栃東の相撲が上回っていたといえるが、12日目の若の里戦は強引に寄っていって土俵際で逆転負け。10日目の雅山戦で見せた無理な体勢からののど輪押しになにか嫌なものを感じたのだが、それが2連敗の伏線となっていたのかもしれない。これで4場所連続8回目の優勝。朝青龍の強さもさることながら、やはり彼を脅かす強敵の不在に尽きると思う。
 千代大海、魁皇の両大関はともに10勝以上をあげて勝ち星だけ見たら及第点といえるかもしれないが、相撲内容は本来の迫力や強さを感じさせるものではなく、もう峠を過ぎたという印象を与えた。とくに朝青龍戦では両大関とも相撲をとる前からもう歯がたたないという感じが見えてしまっていた。白鵬、琴欧州、萩原らが上がってくるまでなんとかつないでほしいという感じか。
 カド番の武双山は、序盤で3敗した時はもうダメかと思われたが、突如相撲に力が蘇って7連勝で勝ち越した。しかし、カド番脱出で力が尽きたか、以後は別人のよう。千秋楽の休場に、武双山の引退の近さを感じてしまった。
 よくやったのは栃東。特に朝青龍を破った一番は特筆すべきもの。うまく中に入って終始攻め続け、苦し紛れに引いたところをつけいる完璧な相撲。14日目の雅山の相撲でも機敏な動きを見せて10勝を記録。大関陥落の翌場所に10勝以上すれば大関復帰という規定をクリアできた。相撲勘も鈍っていただろう。その中での10勝だけに値打ちがある。来場所は大関として再び朝青龍を追走する立場になる。唯一期待の持てる大関が復帰したことは喜ばしい。
 三賞は殊勲、技能に該当者なし。敢闘賞が豊桜の初受賞。豊桜の敢闘賞は異議なし。遅咲きの苦労人が持ち前の突き押しを存分に見せてくれた。千秋楽も3敗を守り、優勝決定戦の可能性を残したのも自信につながるだろう。それにしても他の賞が該当者なしは解せない。横綱に土をつけた栃東は大関格なので除外したというのはわかるが、いくら元大関とはいえ陥落してから久しい雅山は9日目まで土つかずで突っ走り、現在の大関陣以上に場所を盛り上げた。殊勲賞か敢闘賞を与えてもよい。朝赤龍、白鵬のモンゴル勢も最後まで優勝争いに残る中で、技能賞にふさわしい相撲を見せてくれた。若の里は横綱を破って勝ち越しているのだから、本来なら殊勲賞ものだろうが相撲内容が期待外れだったので外されたのだろうか。選考過程を知りたいところだ。
 北勝力は先場所とはうって変わって大敗。押し相撲は調子の波に乗り損ねると無惨な結果になることが多いが、今場所は先場所と違って相手もよく見て相撲をとっていた。これを糧に来場所以降は腰を落として下から押し上げるような相撲も見せてほしいものだ。期待された黒海は、馬力に頼った相撲で思うように勝ち星がのびなかったが、辛うじて勝ち越し、来場所の三役昇進が期待できる。
 十両では琴欧州が優勝した。長身を生かした大きな相撲は魅力たっぷりだが、幕内となると脇の甘さをつかれてもぐられたりして苦戦するかもしれない。つかみどころのない露鵬も幕内でどこまで通用するか。それよりもきびきびとした動きの豊ノ島の方が幕内でも暴れてくれそうだ。萩原は自分の型がまだできていないせいか、苦しい場所だった。壁に当たった感じがするが、これが逆に大きくのびるターニングポイントとなるかもしれない。
 これら若手の成長を待つだけではなく、今伸び悩んでいる力士たちの発奮を期待したい。そう強く感じた場所だった。

(2004年7月18日記)


目次に戻る

ホームページに戻る