魁皇の横綱挑戦は失敗に終った。初日の琴光喜戦は明らかに硬くなって出足が止まってしまった感じだし、雅山に敗れた一番は腰痛が再発したのかいやにあっけなかった。千秋楽の朝青龍戦で万全の相撲をとり、来場所に望みをつないだ形にはなったが、テンションを保ち続けられるかどうか、やや心配だ。とはいえ、これまでと違いあと1勝で横綱というところまでもっていけたのだから、なんとかチャンスをつかんでほしいものだ。やはり場所前に予想した通り、朝青龍が序盤に取りこぼしがなかったため、ついていくのが難しくなったという展開になった。
優勝した朝青龍は、強引さが影をひそめ(若の里戦のように相手が負けても手をふりまわしたりと片鱗はみせたが)、落ち着いた相撲で危なげなく勝ち進み、大鵬、北の湖、千代の富士と並ぶ年間5回の優勝を果たした。先場所の教訓を生かしたところに進歩の跡が見られた。朝青龍の牙城を崩すのは白鵬あたりの出世を待つしかないのか。
その白鵬は、魁皇、朝青龍に真っ向からぶちあたりみごとにこれを撃破、殊勲賞に輝いた。先場所まではうまさと柔らかさで勝っている感じだったが、今場所はそれに力強さが加わった。大きな怪我がなければ近い将来横綱を締めているに違いない逸材である。朝青龍などは、仕切り直しの時点で警戒する感じが強く、思い切って踏み込めず焦って前に出たところをみごとにいなされた。来場所はまた違う強さが加わっているだろう。おそるべき19歳である。
その白鵬を投げ飛ばしたのが琴欧州。左からの投げを白鵬が踏みとどまると見るや右からの投げに瞬時に切り替えた。これは明らかに「呼び戻し」の大技である。まわしをつかんでいたので「呼び戻し」という極まり手にはならなかったが、私が決まり手係ならそうアナウンスさせている。こういう豪快な技をだせる力士はめったに出ない。初の敢闘賞を受賞したが、それも当然だろう。
技能賞は若の里。敗れはしたが朝青龍戦でもほぼ互角の相撲が取れていた。無意味な強引さがなくなり、着実な相撲をとれるようになった。来場所は大関を狙う位置にくる。成績は長らく安定しているのだから、いつ昇進させてもおかしくない。
ヒジを傷めた千代大海が負け越して来場所はカド番。肩甲骨を骨折した栃東は2場所連続休場で2回目の大関陥落、武双山は後述するように引退。魁皇以外の大関が不本意な成績を残しているだけに、早く次代を担う若手が昇進してほしい。3人とも怪我がなければこういうことにはなっていないはずで、力士にとって怪我は大きいと言わざるを得ない。
その他の力士では、押しの威力が戻ってきた雅山、小柄ながらきびきびした相撲が印象的な新入幕の安馬、がぶり寄りなどがむしゃらな相撲をとれるようになった新入幕の稀勢の里あたりが今場所特に目をひいた。また、十両では優勝は逃したものの出足が鋭い琴奨菊がその力をのばしており、来場所の新入幕が期待できる。
魁皇に注目が集まるなかで着実に白星を重ねた朝青龍が先場所のお返しをした。そういう場所であった。ただ、14日目で優勝が決まったので盛り上がりに欠けた。それが残念ではあるが、次世代の力士たちがいよいよ顔を揃えてきたという楽しみに満ちた場所でもあった。
大関武双山が初日から3連敗し、引退を表明した。大関としては物足りなかったけれど、大関に昇進するまでの強さは特筆すべきであった。後援者がつけたあだ名が「力天使(パワー・エンジェル)」。変なニックネームなので定着はしなかったけれど、力強い出足で相手を圧倒するというイメージは伝わってくる。入幕から1年はどこまで強くなるのかと将来が楽しみであったが、足首、そして腰など下半身に怪我が多く、体の硬さを感じさせた。大関昇進直前の優勝は、痛み止めの注射で無理をした結果のもので、その無理と地位を引き換えにした結果、大関としては二流の存在にしかなれなかったのは悔やまれる。今後は年寄藤島を襲名して後進の指導にあたる。心から「体を休めて怪我を治して」という声をかけたい。お疲れさまでした。
元幕内の大碇も引退。京都出身の幕内は久しぶりで、同郷の私はその小さな体から強烈な突き押しが出るのを楽しみに見ていた。しかし、幕内は7場所しか在籍できなかった。大碇も怪我に泣かされた口である。一度は幕内上位に上がってほしかった。今後は準年寄、大碇として部屋に残るという。お疲れさまでした。
(2004年11月28日記)