大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜朝青龍全勝、栃東2度目の大関復帰〜

 場所前の稽古不足が懸念された朝青龍だが、場所を通じて安定した相撲で全勝優勝した。危なかったかもしれないのは初日の白鵬戦のみ。この相撲は、正面土俵に朝青龍が白鵬を追いつめた際に、白鵬のかかとが少しばかり出てしまい、朝青龍の勝利となった。白鵬は反撃して土俵中央に寄り返していただけに、かかとを踏み出していなかったら逆に横綱を倒してしまったかもしれない。そうなると、朝青龍は出鼻をくじかれた形になって勢いに乗ることができなかったのではないだろうか。そう考えると、初日の白鵬のかかとが今場所の趨勢を決定したことになる。白鵬にとっても大きな勉強となった一番ではなかったか。
 その白鵬は旭天鵬戦で立ち合いの変化についていけずに土俵を這った一番、若の里、岩木山の速攻になすすべなく敗れた一番は完敗であったが、あとの相撲はしぶとい足腰で相手の攻めを受け止め、相撲の流れに乗って勝つという取り口で、朝青龍の強引な相撲よりもよほど横綱の風格を感じさせた。立ち合いで自分十分の形を作ることができるようになれば、貴乃花タイプの大横綱になる可能性を秘めている。技能賞受賞は当然。敢闘賞も加えてもよかったのではないか。
 横綱挑戦の魁皇は、初日の岩木山戦は土俵際の逆転勝利で星を拾ったものの、2日目から肩の怪我の影響もあって3連敗し、結局途中休場、大関挑戦の若の里も体の動きが鈍く、3日目から4連敗して大関への夢を断たれた。若の里も負け越し、新横綱、新大関への挑戦は一から出直しとなった。こうたびたびチャンスを逃すと、次のチャンスはもう訪れないかもしれない。
 栃東が14日目の栃乃洋戦で10勝目をあげて2度目の大関復帰を決めた。序盤から右からの攻めを意識した相撲で、連敗がなかったのも大関復帰につながった。左肩の骨折は治らないものらしいので、どう怪我とつきあっていくかを考えて相撲をとるようになったのだろう。今のところ、朝青龍を脅かせる実力者は栃東、魁皇、白鵬あたりだけなので、この復活は喜ばしい。
 カド番の千代大海もなんとか14日目に勝ち越して大関の座を守った。左ヒジはまだ万全とは言い難いようで、このまま大関を守っていくだけに終る可能性が高くなってきた。なんとかもう一花咲かせてほしいのだが。
 琴欧州は三賞こそ逃したものの、河津掛けなどの豪快な技を見せ、魅せる相撲を取る。まわしさえしっかり取ったら懐の深さを生かした投げが見られる。立ち合いに突っ張ったりして自分の形に持っていける相撲が増えると、まだまだ強くなりそうで楽しみだ。
 13日目に優勝を決めた朝青龍が、ライバルがほしいと言ったそうだ。まさしくその通り。朝青龍一人が強くては相撲が面白くない。貴乃花には曙や武蔵丸といった強敵が立ちはだかった。千代の富士も、隆の里、双羽黒、大乃国、旭富士、小錦、霧島といった実力者に囲まれていた。北の湖には輪島、二代目若乃花(幹)、三重ノ海、貴ノ花、旭国といったライバルがいた。大鵬には柏戸、栃ノ海、佐田の山、北の富士、玉の海が立ち向かっていった。だからこそ、大横綱の称号が似合うのだ。朝青龍を本当の意味での大横綱とするためには、切磋琢磨する相手が必要である。そういう意味で、魁皇、若の里の挑戦がついえたことは寂しい。今場所はそのために低調になってしまったといえるのではないだろうか。

(2005年1月23日記)


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