大関昇進を狙う白鵬は、初日、黒海に立ち合いから圧倒された。張り差しにいくという策を吹っ飛ばすほど、黒海の出足は強烈だった。なすすべなく土俵を割った白鵬は、歯車の噛み合わせが外れたかのように、チグハグな動きを見せ、初日から3連敗した。勝った相撲も白鵬らしい動きはあったものの、こわごわ相撲を取っているという風にも感じられた。横綱朝青龍には一気の攻めで寄り切られ、千秋楽に勝ち越すのがやっとだった。こうして、白鵬の大関狙いは一から出直しとなった。上位の壁、プレッシャーとの戦いは、20歳になったばかりの青年にとっては初めて経験する強烈なものだったのではないだろうか。しかし、この壁を超えてこそ、将来に道はつながる。そういう意味で、貴重な体験をした場所ではなかったか。それにしても、こういう状況でもちゃんと勝ち越しを決めるのだから、白鵬はたいしたものである。ふつうなら大敗している展開なのに。
優勝は朝青龍。金色の褌を締めて出場。もっとも、黄色が強くてウコン色にしか見えなかったけれど。輪島にあやかったそうだが、輪島は引退を覚悟した場所で金色の褌を締めて復活した。朝青龍の金の褌はそこまでの意味があったのか。場所の途中から右手で手刀を切るようになり、千秋楽まで持続した。しかし、こういうことが話題の中心になるというほど、相撲に関しては危なげがなかった。立ち合いの出足、勝負をきめるタイミングは、他の力士を圧倒していた。そういう意味では、連勝を27でストップさせた栃東の相撲は大きい。勝ったと思った相撲が取り直しとなった瞬間、朝青龍の表情には混乱している精神状態が透けて見えた。朝青龍は完璧主義者なのだろう。だから、そこを崩すと意外にもろい。取り直しの一番は、計算外で体が思うように動かなかったのが手に取るようにわかった。来場所まで、他の力士たちはこの相撲をよく研究して朝青龍の計算をいかに狂わすことができるかを考えてほしいところだ。
その栃東も、序盤に黒星が重なった時は計算が狂って思うように相撲が取れないという感じであった。しかし、中盤から巻き返して10勝をあげたのは立派である。魁皇は、カド番を脱出してほっとしたのか、そこで集中力が途切れたように感じられた。千代大海は限界を感じさせるような相撲が多く、負け越し。立ち合いの当たりが弱いのを出足でカバーしようとしてやみくもに突っ込んで墓穴を掘るパターンが目についた。
新小結の琴欧州もプレッシャーに負けた一人か。スプリングのように柔軟な足腰も、今場所は硬かった。こちらも壁に跳ね返された来場所以降の相撲で将来への展望が変わってくるだろう。
敢闘賞の玉乃島は、左四つの型を持っている強みを遺憾なく発揮した。初日から7連勝したことで変な色気がでてしまったか、中盤で3連敗したのが惜しかった。技能賞は海鵬と安馬。海鵬は今場所は足技をあまり出さず、食い付いて前に出る相撲に徹したことが好結果につながった。安馬は前褌を取るスピードが早くなった。出足もよく、前傾姿勢の角度もいい。このまま伸びていけば、技能賞の常連になることも期待できる。
惜しくも三賞の選考から漏れたが、露鵬も褌をつかんだ後の怪力ぶりを発揮して好結果を残した。今場所はあまり引いたり叩いたりしなかったのがよかったのではないか。
期待株であった若の里と琴光喜は、勝つ時は素晴らしい相撲となるが負けた時は同一人物と思えない相撲になってしまう。二人とも、技術的には申し分ないのだから、あとは集中力をいかに高めて持続させるかが今後の課題となるだろう。
惜しかったのは稀勢の里。がむしゃらながぶり寄りで7勝目をあげてから4連敗し、千秋楽にようやく勝ち越し。結果に気がいって、自分の相撲を取るのを忘れてしまったという感じか。内容がよければ結果は後からついてくるということを身にしみて感じたことだろう。
他には、十両優勝の琴奨菊の出足のよさが光った。再入幕となる来場所もこういう相撲がとれればよいが。課題は立ち会いだろう。
栃東の健闘で優勝決定は1日遅れたものの、ライバル不在の独走で朝青龍が優勝した。これでは面白くない。本場所を見にいったけれど、優勝の行方がなかなかわからない十両の土俵の方が活気があって面白かった。毎場所同じことを書いているが、千秋楽まで優勝の行方がわからないという展開を期待したい。解説者の北の富士さんも言っていたが、鍵を握るのは大関たちである。栃東や魁皇は、朝青龍に勝てる力を持っている。結局は取りこぼしの有る無しで大きな差がついている。来場所こそ白熱した優勝争いになることを願っている。
(2005年3月27日記)