大相撲小言場所


平成十七年夏場所展望〜朝青龍は無敵か?〜

 今場所は、正直なところ「目玉」と呼べるものがない。例えば誰かが横綱や大関昇進を賭けて土俵に上がるということもないし、朝青龍の連勝は先場所13日目に栃東によってストップしたので、連勝記録がかかっているというわけでもない。朝青龍が年間最多勝利、あるいは6場所全て優勝を狙っているとしても、今場所はその過程でしかない。
 しかし、確かに朝青龍は優勝候補の最右翼にいるが、その予想通りすんなりと優勝してしまうのは正直いって面白くない。特定の力士だけが無敵の快進撃を続ける土俵というものは、実は相撲への興味をそぐものだと思っている。古くは江戸時代の谷風と小野川、明治時代の常陸山と梅ヶ谷、大正時代の太刀山と栃木山、戦後では栃錦と若乃花、大鵬と柏戸、北の湖と輪島、若貴兄弟と曙や武蔵丸というように、強いライバルがいてこそ土俵は盛り上がる。昭和の終り頃の千代の富士時代は双羽黒、大乃国、小錦、旭富士、霧島ら役者は揃っていたものの、千代の富士の独走に待ったをかけられなかった分だけ面白みに欠けた。千代の富士が横綱に昇進した頃、隆の里が千代の富士をはねのけて毎場所のように優勝争いをしていたが、その時期の方が後年53連勝を記録した時よりも毎場所が楽しみだった。
 今、朝青龍に必要なのは土俵上のマナーでも記録への挑戦でもない。彼の行く手を阻むライバルの存在なのである。
 では、朝青龍は当分このまま無敵でいられるのか。そこらあたりを考えてみたい。
 答は否である。朝青龍にはライバルがいない。ライバルになりそうだった琴光喜などはつり落しで土俵に叩き付けて恐怖感を味わわせた。朝青龍にはライバルは不要なのである。プライドが高く、自分が一番であることを確かめずにはいられない彼にとっては、自分と対等の力を持った存在が出てくることは脅威に違いないとおもうのである。だから、勝つ時は徹底的に相手を叩きのめして自分が優位にあることを相手に突きつけるのではないだろうか。
 ならば、立ち合いの変化やとったりやひっかけなどのケレン相撲で朝青龍を翻弄してみればどうだろうか。自分の思うように相撲が運ばない時の朝青龍は、焦って自分の体勢になろうとしてかえって墓穴を掘る。立ち合い頭から思い切って当たり、胸を出して受けようとしたところを下から突き上げるという相撲を取られると、朝青龍は弱い。北勝力、岩木山が朝青龍を破った相撲がそうだった。弱点はあるのだ。
 だから、栃東のように相手の体勢にならせない相撲をとるタイプの力士にはやられてしまうのである。
 相撲はバランスの競技である。先にバランスが崩れた力士が負ける。ならば、そのバランスをどんなやり方でもいいから崩してやればよいのだ。白鵬は張り差しなどという甘い立ち合いをするのではなく、頭から当たって自分十分の型を早く作るべきのなのである。
 果たして、今場所は誰が朝青龍を惑わせるか。そういう力士が出るのか。焦点はそこらあたりにしかないのだ。

(2005年5月7日記)


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