朝青龍が6場所連続優勝を果たした。これはかの大横綱大鵬以来の記録である。改めて集中力を持続させていく精神力の強さに感心した。朝青龍の場合、その強さは勝ち負けを超えたところにあるのではなく、勝つということに対する執念の強さがその持続力の源泉になっているように思う。とはいえ、今場所はもう少しで連覇をストップさせられるところまでいったわけで、そういう意味では綱渡りのような記録達成だったかもしれない。
初日、普天王に立ち合いから思い切り突っ込まれてふところに入られ、焦って引こうとするところを寄り倒された。2日目は黒海の激しい突き押しにたじたじとなり、けんかまがいの張り手で相手の戦意を喪失させるという相撲。翌日からは朝青龍らしい相撲をとれるようになったけれども、いつまでたっても琴欧州が負けないので集中力が切れたか11日目の安美錦戦で無理な体勢からすくい投げを打つところを外掛けにひっくり返された。いつもは敗れると非常に悔しそうにするのに、この日はなにやらさばさばとした様子だった。おそらく6連覇は難しいと感じたのではないだろうか。後述するが、この時期の琴欧州の相撲は充実しており付け込む隙がないように思われた。それに対して朝青龍には隙が見えた。
琴欧州は前半ははたきや引きが目立ったが、中盤戦からもろ差しの体勢から一気に寄る相撲や、まわしを取っての豪快な投げが決まりだし、12日目を終ったところで勝ちっ放し、続く朝青龍と稀勢の里との差は2と開いた。
そして迎えた13日目、朝青龍と琴欧州の大一番は、相撲というよりもストリートファイトか。一度は琴欧州が横綱の背中にまわるという場面もあったが、よく踏みとどまった横綱が体を入れ替えて反撃し、強引に相手の背中を押さえ付けるようにして土俵に這わせた。琴欧州の緊張ぶりは支度部屋通路でのウォームアップからひりひりと伝わってきていた。土俵に上がった時には顔面は蒼白。プレッシャーに弱い性格なのだろう。それは先場所にも感じたことなのだが。
第三の男は稀勢の里。見違えるように相撲がよくなった。先場所まではただがむしゃらに前に出るだけで土俵際でしばしば逆転されていたのだが、今場所は左から強くおっつけて相手の体勢を崩し、左を差して右上手をすばやく取り、体を密着させて腰を落しながら寄るという形を完全に作り上げた。12勝3敗で千秋楽を終え、朝青龍と琴欧州の相撲の結果次第では優勝決定戦というところまでもっていった。
朝青龍に敗れた琴欧州は続く稀勢の里戦でもプレッシャーのために過緊張状態となり、自分の相撲が全く取れなかった。千秋楽の千代大海戦でやっともろ差しからすばやく寄るという本来の相撲を取り戻し、朝青龍との優勝決定戦に臨んだ。ところが腰は高く体は動かずであっさり押し出され、九分九厘と思われた初優勝を逃してしまった。
とはいえ、琴欧州と稀勢の里は今場所の土俵を盛り上げた最大の功労者といっていいだろう。2人そろって敢闘賞は当然の結果だ。
もったいなかったのは普天王と若の里。普天王はせっかく初日に横綱から勝利を得たものの、3日目から8連敗。一度リズムが狂うとなかなかもとに戻せないという欠点を露呈した。若の里は初日から快調に勝ち進んでいたが、6日目の白鵬戦で投げの打ち合いになった時に股関節を不自然な体勢で開いてしまい筋段裂で翌日から休場となった。
今場所も先場所に続き、安馬と時天空の取組が一番印象に残った。水入りとなる長時間の熱戦で、お互い持てるだけの技をくり出して見ごたえのある攻防を見せてくれた。来場所以降も目の離せない顔合わせである。
十両では豊ノ島があわや全勝という相撲で14勝1敗の優勝。スピード感が増したのが好成績の原因だろう。ただ、横からの攻めはまだ弱く、幕内でどこまで通用するか。
というわけで6連覇を達成した朝青龍だが、モンゴルに里帰りしては場所前の軽い調整ですませるということが続いているそうである。しかし、けいこ不足は歴然としており、これまではけいこの貯金でなんとかなっていたけれど、今場所はそろそろその貯金が尽きかけてきたという感じがする。そんな朝青龍に優勝を許す幕内力士たちには来場所に向けてしっかりけいこを積んでほしいものである。
(2005年9月25日記)