白鵬が初日、稀勢の里の圧力に屈したのを見た時に、今場所は苦しいと感じた。「心・技・体」という。その「心」の部分が気になったのだ。大関を目前に足踏みを続けた時に、張り差しで簡単に組む立ち合いでよく失敗していた。そして、初日も簡単に張り差しにいったところを立ち合いで圧倒されたのだ。2日目から4連勝したけれども、本来の正統派の四つ相撲というところからは程遠かった。そして6日目の安美錦戦、強引な小手投げにいったところを軸足の左足に足を掛けられて仰向けに倒れるという白鵬らしくない負け方。終盤は膝の故障も加わって精彩のない土俵が続いてしまった。8勝しかあげられず、横綱への挑戦は一から出直しとなった。これも先場所の理事長の「13勝なら横綱」発言にもかかわらず横綱審議委員会への諮問も行われなかったことへの落胆が尾をひいたと考えていいだろう。まだ若いのだから、この成績で逆にふっきれて快進撃を再開することを期待したい。
琴欧州は中盤腰高をつかれて連敗、栃東は序盤の連敗からなんとか持ち直したが時すでに遅し。千代大海はところどころで取りこぼし、優勝争いに加わることはできなかったが、朝青龍をカッとさせるような気迫のこもった相撲で久々に横綱戦の白星を勝ち取った。手が髷にかかっているのではと物言いがついたが、たぶさをつかむという感じではなく、この程度なら千代の富士の「ウルフ・スペシャル」にも疑わしいものはあった。魁皇はいいところなく途中休場。来場所は進退を賭けることになるだろう。大関陣は総体に可もなく不可もなくという感じであった。
優勝争いは6日目に出足を稀勢の里に封じられて土がついた横綱朝青龍と7日目に岩木山の体重に屈した平幕安馬の2人に絞られた。12日目に安馬は白鵬にうまさ負けをし、13日目、特別に組まれた朝青龍戦で力の差を見せつけられ、最後は朝青龍の独走という形になった。しかし、安馬の活躍がなければもっと早く優勝が決まったかもしれない。安馬は初の敢闘賞。安馬びいきの私には嬉しい場所だった。
朝青龍は、先場所同様、先手を取ってスピードで相手の動きを封じ、無理にねじ伏せるのではない相撲を心がけていたのがこの成績につながったと思う。だから、稀勢の里や千代大海との相撲では主導権を握ることができず苦杯をなめている。来場所、横綱と対戦する力士には参考になるだろう。
場所を盛り上げたのは安美錦。足癖や出し投げなど得意の小技が冴えに冴えて、一時は優勝争いに加わったことも。終盤に出足がよくなった琴奨菊、馬力相撲で大関陣と五分の力を見せた露鵬、新三役で勝ち越した黒海、横綱に完璧な相撲で勝った稀勢の里(初の殊勲賞)たちの活躍も印象に残った。
そして、雅山。途中で6敗目を喫して大関再昇進の夢はついえたが、それでも終盤は開き直ったように出足と突き押しの冴えを見せ、9勝という成績で来場所以降の挑戦権をなんとか保持した。
なんにせよ、白熱した優勝争いという展開にならず、結局朝青龍の独走という結果に終ってしまった。全体には低調だったと言っていい場所だった。
(2006年9月24日記)