場所前、時津風部屋に出稽古にいった朝青龍が、新小結の豊ノ島に胸を出した際にプロレス技のような技をかけ、足首をひねっているのにそのまま上から押しつぶすようなことをした。豊真将にも張り手を交えた危険な相撲をとり、元小結双津竜の時津風親方は「朝青龍は出入り禁止だ」と宣言した。
さらに翌日、今場所優勝すれば横綱という白鵬までもが「横綱(朝青龍)が猛稽古したという話を聞いて燃えた」と言いながら、こちらも意味のないだめ押しをしたりする危険な稽古をしたという。かつての師匠である元幕内竹葉山の熊ヶ谷親方は「もう一度ちゃんと指導すしなければ」と記者に話した。
相撲協会の内規では、横綱とは「品格力量抜群の者」に与えられる地位である。力量だけが抜群でも、品格がなければ横綱には値しないのだ。戦前の大横綱双葉山は今では半ば神格化されているけれど、それはただ強かっただけではなく全ての力士から尊敬されるような人格者だったと多くの人たちが証言している。
ただ強ければそれでいいのではない、後輩の力士たちには彼らが強くなるように稽古をつけ、そうしておいて土俵上ではねかえしていく。大横綱と呼ばれる力士はそうして次代にバトンタッチしていったのだ。例えば、今場所直前に引退を表明した大関栃東は、横綱若乃花(勝)に胸を出してもらって大関にまでなった。残された成績では若乃花は「弱い横綱」と思われてもしかたない。しかし、横綱の「品格」の部分でいえば、若い力士にわざわざ怪我をさせたり恐怖心を与えたりする朝青龍は若乃花には遠くおよぶまい。
協会は、理事長は、横審は、今回の朝青龍の態度について厳しくすべきだった。しかし、それができなかった。師匠高砂親方は朝青龍には何もいえないと聞く。これで今場所朝青龍が優勝したら、その姿勢はますますひどくなるに違いない。
今場所ほど、朝青龍や白鵬以外の力士に頑張ってもらいたいと思わない場所はない。彼らは私の愛してきた相撲とは別な事をやろうとしている。「八百長」などよりも、それはもっと深刻な問題なのではないだろうか。
(2007年5月12日記)