大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜琴光喜、悲願の大関昇進〜

 場所前の予想では、白鵬の新横綱優勝という声が高かった。新横綱の場所というのは場所前の行事などで土俵に集中し切れないものなのだが、それでも白鵬が一番手と予想されたのは朝青龍の先場所の終盤の内容があまりにも悪すぎたからだろう。また初日の安美錦との一番などは、立ち合い張り差しにいき変化して上手を取ろうとして逆に中にはいられ、なすすべもなく敗れ去ったばかりか、大関と当たるあたりまではあの強烈な睨みつけもだめ押しも強引さもスピードもなく、別人のような相撲を取り続けていた。高見盛戦で吊り落としを見せてから、朝青龍らしい相撲になり、琴光喜を上手投げに下したところでらしさを取り戻した。これで完全復活とはいかないだろうが、少なくとも早期引退という危機はやり過ごしたと見ていい。
 最後まで優勝争いをした琴光喜は、直接対決で朝青龍に敗れ去ったのが痛かった。今場所の琴光喜はこれまでのように万全の体勢になるまで待つというような消極的な相撲が影をひそめ、徹頭徹尾攻め続けた。本来そういう攻めをする力士だったのが、怪我などの影響で力強さを失っていたのだ。今場所は初日こそもたついたものの、2日目以降は常に先手をとっていた。さすがに千秋楽は緊張したのか、あるいは大関昇進を確定づけて疲れが出たのか、稀勢の里の馬力相撲に屈して賜杯は逃した。しかし、こと今場所に関しては大関昇進は文句なしだろう。ただし、来場所以降、地位を守るためにまた消極的な相撲に戻っては何にもならないのだが。
 新横綱白鵬は11勝に終ったが、まずは及第点か。ただ、優勝争いから脱落したあとの相撲に気の抜けたものが感じられた。たとえ優勝圏外にあっても内容の濃い相撲を取るのが横綱のつとめだと思う。
 新入幕の豊響が敢闘賞。前に出る相撲が評価されたのだろう。ただ2ケタ勝利をおさめただけではなく、内容も濃いものがあった。三賞は、殊勲賞が朝青龍に唯一土をつけた安美錦と、敢闘賞と技能賞が大関昇進を確定づけた琴光喜。三賞以外では、中盤まで優勝争いに加わっていた豊真将や、力強い相撲が復活した稀勢の里などが目についた。琴光喜は新大関といっても31歳。やはり豊真将や稀勢の里に大関になってもらいたいのである。
 十両では期待の豪栄道が12勝をあげて来場所の新入幕を確実にした。今場所途中休場の栃煌山ともども未来の横綱大関と目される存在だけに、期待は大きい。
 最後に、立行司木村庄之助に苦言を呈したい。優勝争いが盛り上がってきた13日目、朝青龍と対戦した千代大海が待ったをしたにもかかわらず、それに気づかず軍配をひき「残った」と掛け声をかけた。朝青龍は行事の声で立ち合い成立と確信し、隙のない相撲で寄り切ったが、千代大海は手もついておらず明らかに立ち合い不成立である。審判長は千代大海の師匠の九重親方。自分の弟子の負けを消しにかかったと思われることを恐れてか立ち合い不成立を宣告しなかった。行司は土俵の進行係である。立行司といえば力士では横綱、それが明らかな待った及び手つき不十分な相撲を成立させ、まるで気力の見られない相撲を観客に見せてしまった。歴代の庄之助親方では考えられないお粗末である。

(2007年7月22日記)


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