名古屋場所終了後、腰骨の疲労骨折を訴えて地方巡業の休場を申し出た横綱朝青龍は、理事会の承認も待たずにモンゴルに帰国した。帰路、飛行機に偶然サッカーの中田選手が乗り合わせていたことが、朝青龍にとって運命の転機となった。中田は朝青龍に親善サッカー試合の出場を口頭で依頼してきたのである。モンゴル政府からの依頼という手続きをとった上で、腰の骨を折って相撲も取れないはずの朝青龍は、元気よく楽しげにサッカーに興じた。そして、その姿は日本からきていたテレビ局の格好の被写体となった。巡業部長の大島親方をはじめとする理事たちは、強い処分を与えるよう理事会で求めた。地方巡業という相撲協会にとっては地方のファンを増やし相撲人気を高める興行には横綱の存在は必要不可欠である。幸い新横綱の白鵬がいる。朝青龍不在を埋めるため、参加している力士たちがファンとふれあう企画をたて、かえってそれが話題を呼んだ。朝青龍には２場所謹慎の上、帰国および歓楽街などへの外出が禁じられることになった。日本に戻ってから厳しい処分に驚いた朝青龍は、強い態度を取ることでカバーしていた生来の気弱さが出たか、謹慎中でも稽古場におりることはできるのに、自室に籠り切り、主治医は「あと２〜３日で鬱病になる」という診断を下し、帰国療養を勧めた。これによって問題は朝青龍の精神状態と帰国の許可を下すかどうかというところにいってしまう。相撲診療所の推薦する医師は「ストレス障害」と診断し、結局協会は師匠の高砂親方やその代理人が監視することを条件に帰国を許した。しかし、高砂親方は数日で日本に帰ってきてしまい、監視すべき代理人もたてていない。朝青龍は日本からやってきた報道陣をシャットアウトし、温泉治療中であるという。記者会見も開かず、モンゴルでの行動も極秘ということで、週刊誌は断片的な情報をもとに朝青龍バッシングを続けている。
八百長問題に続いて、このようなことで話題になってしまったことが、悲しい。
横綱２場所目の白鵬の優勝か、新大関琴光喜が一気に眠りかけていた素質を開花させるのか、稀勢の里ら次の大関を目指す若手力士たちはどれだけ活躍するのか。そんなわくわくするような話題には、マスメディアは注目すまい。
しかし、そういう状況下であるが、大横綱への道を歩みだすだろう白鵬の充実ぶりや、将来の大関候補である新入幕の豪栄道がどれだけ力をのばしているかなど、騒動の影に隠れながらも今後の相撲界を占う重要なポイントは多い場所なのである。朝青龍という大相撲の歴史上稀に見る最強の「悪役」が不在であるという状況で、どれだけ白熱した優勝争いが繰り広げられるのか。
刮目して初日を待ちたい。
（２００７年９月８日記）
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