大相撲小言場所


九州場所をふりかえって〜白鵬連覇、魁皇踏みとどまる〜

 さすがに2場所目ともなると、朝青龍不在が常態となった感じで、妙な喪失感はなくなった。横綱白鵬を中心にベテラン大関陣が支えるという構図の場所になったといえる。その白鵬も絶対的な強さはまだなく、そういう意味ではまだまだ他の力士にも優勝のチャンスがあるという感じで、ここに若手力士がぐっと力をつけてくればこれからも面白い土俵になるといえるだろう。
 場所前に大騒動になった時津風部屋の新弟子リンチ殺害事件について、初日の協会あいさつで北の湖理事長は「一連の件」と一言ですましてしまった。そのような危機意識の低さと、元来入りの悪い九州場所ということもあって、大入り満員は終盤の3日間だけ。といっても、昨年の九州場所も大入り満員は3日間だけなので、週刊誌が不入りを協会の姿勢だけの視点でとらえて書き立てたのは不勉強といえるだろう。実際、平日の観客も人数は少ないながらも(私は嫌だったが)魁皇など地元力士たちに手拍子で声援を送るなど、館内はそれなりに盛り上がっていた。終盤に入りがよくなったのは、最後まで優勝を争った白鵬と千代大海、さらには進退を賭けて土俵に上がった魁皇の踏ん張りなど土俵の内容がよかったからだろう。
 優勝した白鵬は、先場所に続いて初日に星を落した。精神面での課題か。事実上の優勝決定戦となった14日目の千代大海との一番は、突っ張る千代大海の手をたぐってしのいでの勝利で、型があるようでまだ決まっていない若き横綱の成長過程を見せられているような感じである。
 千代大海は初日から突っ走るが10日めを過ぎるとスタミナ切れをするという悪癖があるが、今場所は序盤得意の突っ張りよりも四つ相撲で勝ったりして必ずしも本調子でなかったのがよかったのかもしれない。ただ、やはり稽古不足は明らかであり、14日目にとったりで引っ張られた肘を傷めて千秋楽に休場し、相撲を取らないで白鵬の優勝となったのは残念。盛り上がった場所に水を差した形になった。
 進退を賭けて臨んだ魁皇は、中盤までを五分でしのぎ、終盤はひたすら前に出る相撲でなんとか勝ち越し、引退を先延ばしにした。とはいえ得意の上手投げは全く出ず、受け身にまわると残すことができない。相手もなにか魁皇に怪我をさせてはいけないと遠慮したような相撲がみられ(「勝てば悪者扱いですからね」みたいなことを豊ノ島がコメントしていたのが印象的)、博多のファンの熱い応援に支えられての勝ち越しという感じだ。来場所も土俵に上がるということだが、勝ち越したところできれいに引退という道もあったかもしれない。まあこればかりは本人の意志であるので、外野が無責任にいうことではないが。
 琴光喜は千秋楽に白鵬を投げ飛ばして面目を保ったが、ここで踏みとどまれば優勝争いに残れるという相撲にことごとく敗れた。精神面の課題がはっきりとでた。琴欧洲にいたっては、途中休場したけれど、優勝争いには何も影響を与えていない。実に存在感の薄い大関だ。怪我のせいとはいいながらも、1年でここまで変わるとは。
 殊勲賞は安馬。序盤から横綱大関に土をつけ、10勝をあげた。ただ、下位力士に対しては上位に対するような気迫がみられないところが大関を狙うには物足りない。敢闘賞は把瑠都。さすがに下位では体力にものをいわせてまわしをつかんで一気に出る相撲がとれるが、終盤上位にあてられるとまわしを取らせてもらえない。技能を使わなくても勝ててしまうところが逆に把瑠都の成長を妨げているという気がする。技能賞は琴奨菊。初日に白鵬を圧倒し、その勝ち星で波に乗った。ただ、得意のがぶり寄りは今場所そう多くは見られず、どのあたりの技能が評価されたのか。技能賞なら前に出る技能が光って10勝した出島がとってもおかしくはなかったと思う。他にも、幕内2場所目でも自分の相撲を思い切りとって勝ち越した豪栄道の生きのいい相撲、終盤に上手をとってひたすら寄るという形を身につけた稀勢の里などの相撲が光った。
 期待外れは豊真将。師匠の錣山親方によると「慢心して稽古量が減った」らしい。大関を狙える力士になれるか幕内の上位と下位をうろうろするような力士で終るか、ここ数場所に注目してみたい。新入幕の若麒麟は持ち味の出足が冴えて勝ち越した。同じ新入幕の若ノ鵬は勝ち越しはしたものの立ち合いに変化したり引いて勝ったりばかりが目立つ。まだ20歳になったばかりの若手のホープではあるが、相撲内容は引退直前の古参力士みたいだ。十両ではそれでいいかもしれなかったが、上を目指すならば引き技は厳禁だろう。
 行司の失態としては木村玉光が朝赤龍の名乗りを「アサショーリュー」とやったのがなんとも情けない。幕内格以上のベテラン行司としてはまずあり得ない間違いである。これで玉光は立行司にはなれないだろう。というか、こういう失敗を一度でもした行司に腰の刀は任せられまい。
 来場所は朝青龍が帰ってくる。稽古不足の謹慎横綱に名をなさしめてはいけない。各力士、一層稽古に励んでいただきたい。

(2007年11月25日記)


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