千秋楽、13勝1敗同士で東西の両横綱が対戦し、勝利した方が優勝という手に汗を握らせる展開となった。結びの一番は、白鵬の得意の右四つに組み、両力士上手を引き胸を合わせがっぷり四つ。引きつけ合い、つり合い、左からの上手投げで白鵬が朝青龍を土俵に転がした。見ごたえのある一番で、この相撲だけならば今場所はすばらしい場所だったといえるだろう。
白鵬の序盤は相手に胸を出し、力を出させてから自分十分になるというまさに横綱相撲。ただ、10日目に安馬との立ち合いで気だけ先走り攻め急いだところを逆転負けしてからは張り差しが出るようになった。しかし、安馬との相撲以外は非常に安定感のある相撲で、横綱らしさが板についてきた。風格も出てきた。あとは土俵入りで前かがみになる悪い癖をなおしていただきたい。手本が朝青龍なら仕方ないが、あれはかっこわるいんですよ。
朝青龍は、初日の琴奨菊との相撲ではこわごわ立ち合い、慎重に相手をつかまえて仕掛けも遅かった。2日目には稀勢の里の出足に横を向き、後ろにまわられ、このままでは15日間もつのかと思ったくらいだ。しか、翌日からは強烈な張り手で相手の出足を止め、組みとめるとしっかりまわしを取ってから勝負するという取り口に変えてしのいだ。それでも豊ノ島、出島には土俵際まで追いつめられたし、琴光喜には28連勝中という相口のよさがなければ負けていてもおかしくなかった。本場所の白星は最良の薬というが、今場所の朝青龍を見ていると、まさにその通りである。
正直に書いておく。白鵬が朝青龍に勝ってよかった。巡業をさぼらず、毎場所誠実に相撲をとってきた力士が、2場所謹慎していた力士に負けてしまうのは、全ての力士に悪影響を与える。そして、朝青龍はさらに傲慢になり、誰の意見も耳に入れず、傍若無人の限りを尽くすところであった。そうなってしまうと、朝青龍にとっても不幸なことである。
殊勲賞は稀勢の里と安馬。ともに横綱に勝った。特に安馬は白鵬が優勝すればという条件がついていただけに、結びの一番は祈るような思いで見ていたに違いない。白鵬の相撲を見ていたらなかなか土をつけるのは難しいのだから、無条件で殊勲賞でいいのではないかと思うのだが。ただ、安馬は大関を目指して2ケタ勝利が期待されていただけに、9勝に終ったのは残念。特に序盤は大関を意識していたのか動きが硬かった。精神面での図太さがないと大関は難しいかもと思わせる場所だった。
敢闘賞の豪風と技能賞の鶴竜はともに2ケタ勝利をあげたところが評価されたのだろう。豪風は持ち前の前進相撲が冴えた。鶴竜は体が柔らかく、しかも変に小技にこだわらず真っ向から攻めることのできる相撲で、経験を積むことで三役も期待できる。
期待外れは大関たち。魁皇は負け越さなければいい、とにかく土俵に上がってさえいてくればいいという存在になっているので、勝った時の強さを楽しめばそれでいい。うまくいけば横綱にも勝てると思わせるところがあるしね。琴光喜も琴欧洲も勝ち越しがやっと。病み上がりの琴光喜は序盤の敗戦がひびいて千秋楽にやっと給金。琴欧洲は腰が高く相撲が小さく、琴奨菊や豊ノ島のほうがよほど大関みたいな相撲を取る。千代大海は先場所にいためた肘の故障の影響か稽古不足でまったく出足がなく7連敗して休場。これほど大関の存在感のないのは興をそぐ。
新入幕の市原は勝ち越したもののあれだけの体をしていながら立ち合いに当たるでなく、全身で寄るでなく、小手先の相撲ばかり取っていて、幕下、十両の時代より相撲が悪くなった。このままでは上位には通用しないだろう。上位と初めてひとまわりあたって負け越した豪栄道が、自分の相撲を取り切って負けたのと好対照である。
元小結の栃乃花が引退。学生相撲出身ながら序の口から取り小結にまで昇進した努力家。怪我で幕下に落ち、取的生活が長かったが、ついに再起して再入幕を果たし、活躍したのは称讃に値する。地味ながら正攻法で基本に忠実な相撲は若い力士の手本になるものだった。今後は後進の指導にあたるというが、栃煌山など伸び悩む若手がいるだけに、その指導に期待したい。長い間お疲れ様でした。
(2008年1月27日記)