大相撲小言場所


春場所をふりかえって〜またも横綱相星決戦、朝青龍が雪辱はたす〜

 今場所も千秋楽、12勝2敗同士で東西の両横綱が対戦し、勝利した方が優勝という展開となった。今場所の朝青龍は場所前の稽古も足りていたか前半から快調。持ち前のスピードが戻ったように思われた。対する白鵬は4日目に安美錦、12日目に千代大海の立ち合いの変化で敗れるという、立ち合いの甘さが見られた。これは千秋楽の相撲の後に左足を引きずっていたのを見て感じたのだが、場所中ずっと左足は痛かったのではないだろうか。勝った相撲も慎重に相手をしとめるという感じであったのは、左足で踏ん張り切れないからだったのかもしれない。しかし、それを悟らせなかったのだから横綱としての自覚の高さはすばらしい。いいたくはないけれど、朝青龍は負けた後の談話で「実はヒジが痛い」などといきなり言い訳じみた物言いをするのである。その違いを意識しているのかもしれない。
 ともあれ、12日目に白鵬が2敗目を喫した次点で朝青龍は絶対有利になったはずである。ところが、それが逆に油断となったか直後の琴奨菊との相撲で朝青龍は胸でまともに琴奨菊の当りを受け、がぶり寄りを許してあえなく土俵を割った。さらに13日目、先場所まで28連勝していた琴光喜にも受けて立ってしまい、胸を合わしながら上手を切られて左上手投げを食らい白鵬と2敗で並ぶということになった。瞬発力は戻ったが、持久力はかなり落ちてしまっているのだろう。かつての無敵ぶりはもう戻ってこないと思わせる2番だった。
 千秋楽の決戦では立ち合いから突っ走った白鵬を朝青龍が土俵際で軽くひっくり返すというあっけないものになり、朝青龍が4場所離れていた賜杯を手にした。22回目の優勝は貴乃花と並ぶ記録である。先場所よりも相撲内容は格段に復活しているが、スタミナ面での不安を感じさせる優勝だった。それてもよほど嬉しかったのだろう。優勝者インタビューで「わしは大阪が好きや! まいどおおきに!」と大阪弁で観客の声援にこたえていた(こういうサービスはパンアメリカン航空のD.ジョーンズさんを思い出させる。若い人はご存知ないですか)。
 場所前に奮起を期待した大関陣。琴欧洲は連敗続きで途中休場。琴光喜も休場目前というふがいない土俵。対して、前半活躍したのは千代大海だ。白鵬に勝ってなんとか勝ち越しカド番を脱した。終盤のスタミナ切れはヒジの状態を考えるとまあ予想できたところだ。満足はできないが存在感はみせた。魁皇も勝ったり負けたりの土俵だったが、勝つ時の強さには存在感があった。できればどちらかの横綱に土をつけてほしかったところだが。琴光喜は後半巻き返し、特に朝青龍に勝ったことで面目を立てた。とはいえ千秋楽に勝ち越しを決めるなど、大関としては不満が残る。
 殊勲賞は得意のがぶり寄りで朝青龍に土をつけた琴奨菊が初めての受賞。相撲にムラのある場所だったが、この白星で自信をつければ来場所以降の大活躍も期待できる。敢闘賞は最後まで優勝にからんだ黒海と把瑠都。黒海は馬力相撲に足がついていって前半から突っ走った。毎場所こうだと面白い存在なのだが。把瑠都は相手をつかまえて巨体を利して寄る相撲が目立った。引っ張りこんで無理に投げるレスリング風の形が出なかったことが好成績につながった。技能賞は1年ぶりに活躍した栃煌山。出足がついたのと、幕内力士に当たり負けしなくなったことで前半からいい相撲をとることができた。上位力士に通じるようになってほしい。
 三賞以外では、高見盛が自分の形にならなくても相撲がとれるようになって勢いをつけ、土俵を盛り上げたのと、ここ2場所体調不良でふるわなかった豊真将がやっと自分の相撲をとれるようになりファンをわかせたのが印象に残った。また、負け越したが鶴竜の相撲が場所ごとによくなっていて今場所も上位とまともに当たっていい勝負をしていたのがこれまた印象的であった。逆に10勝したけれども普天王などは消極的な相撲で気がついたら勝っていたみたいな感じで勝ち星ほど印象に残らなかった。むろん勝敗の結果が番付に反映するのだが、負けても内容のいい相撲をとっていれば、長期的な視点では内容のいい相撲の力士が上に行くことになるのである。
 ともあれ、今場所も2人の横綱の決戦で盛り上がった。ここにもう一人大関か関脇の力士が加わるとさらに楽しめるのだが。

 木村庄之助親方が今場所限りで定年退職。与太夫時代から長身で目立っていたが、立ち合い手をついていないのに「残った」と立たせてしまう癖があり、私はそちらが気になっていた。それは庄之助襲名後も変わらなかった。残念なことである。それでも退職直前の2場所、ここ数代の庄之助ができなかった横綱相星決戦を裁いて有終の美を飾ったのは幸運だった。長い間お疲れ様でした。

(2008年3月23日記)


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