白鵬の全勝優勝はみごとだった。7回目、そして横綱として初の全勝優勝である。
今場所は立ち合いの踏み込みがよく、相手の動きを止めて確実にしとめるというまさに横綱相撲を15日間取り切った。琴光喜や魁皇などの大関陣は、なんとか自分の相撲に持っていこうとしたのにそれを許されないという感じで、「強く見せる」という勝ち方(朝青龍がつり落しや強引な上手投げで強さを誇示するというたぐいの相撲)ではなく、本当に「強い!」と唸らされるものだった。このような相撲があと1年続けば、全盛時の貴乃花を思わせる自然体の強さとでもいうべき相撲も身につくのではないだろうか。
一方の横綱朝青龍。弱かった。初日の豊ノ島戦は有利な形になりながら腰砕けのようになって自らを窮地に追い込んで敗れた。2日目以降も勝ち星はついていても頭をつけて両まわしを取る形にならないと前に出られない。5日目の栃乃洋戦でこれまた腰が砕けるような体勢になって土俵下に落ち、翌日から休場。私が見てきた大横綱たちも、晩年は休場を繰り返して引退となっていった。千代の富士だけは潔く引退したけれど。朝青龍の相撲は、そういった過去の横綱たちのたどってきた道を思わせるものがある。
連続優勝なら横綱かといわれた琴欧洲は初日に安美錦の寄りに一方的に土俵を割り、3日目には豊ノ島にいつものように中に入られてひっくり返すように投げられるなど散々。わずか9勝に終って横綱を目指すにはまだ早いと思わせるような結果しか残せなかった。琴欧洲の場合は精神面のもろさも大きいのだろう。
大関陣では琴光喜が11勝して面目を保ったが、横綱に13日目に優勝を決めさせてはいけないだろう。千代大海は辛うじてカド番脱出。魁皇も勝ち越しがやっと。毎場所のように思うのだが、千代大海と魁皇は引き際を考える時期にきていると思う。魁皇は幕内の勝ち星が大鵬を抜いて史上3位タイとなったのだが、これはいい花道になるのではという気もする。
安馬が関脇で10勝して技能賞を獲得。大関昇進に向けてまず第1歩を踏み出したといっていい。小結で10勝した殊勲賞の豊ノ島も大関への挑戦者として名乗りをあげた。両者とも小兵ながら正攻法で強い相手に挑んでいく姿勢がいい。ここらあたりがベテラン大関陣に引導を渡す日がくるのか。
その他、目立った力士をあげると、敢闘賞の豊響が持ち前の当たりの強さを生かした押し相撲で最後まで優勝争いに名を列ねたというところくらい。稀勢の里のもたもたした相撲に歯ぎしりし、琴奨菊のがぶりがなかなか出ないのにいらいらし、豊真将がなかなかもとの相撲に戻らないのにがっくりし……、という場所であった。
とにかく今場所は白鵬の強さと朝青龍の時代の終りを強く印象づけられた。
毎年名古屋場所ではご当地の力士に手拍子で応援をする光景が見られ、今場所も琴光喜は毎日手拍子の中仕切っていたが、相撲に手拍子はそぐわない。別に協会が禁止するべきものでないけれど、名古屋の相撲ファンの見識を疑う。あれはなんとかならんものか。
(2008年7月27日記)