大相撲小言場所


九州場所をふりかえって〜安馬、白鵬と優勝決定戦、大関へ〜

 初日から波乱が起きた。白鵬が安美錦にうまく攻めをいなされ懐に入られ投げられた。一方大関を狙う安馬も初日こそなんとか琴奨菊を下したが、2日目の北勝力には足がすべってもう少しではたきこまれるところをなぜかつかまえにきてくれたので勝てた。緊張で体が動いていないのは明らかだ。3日目の稀勢の里との相撲は何もできないまま一方的に寄り切られ、気持ちだけ空回りするように前につっこんでいった豪栄道との一番ははたきこみで2敗目を喫する。ここからの切り替えがよかった。しっかり前まわしをつかんで寄るという基本を守り、投げる時には相手の膝をはらうという技を忘れず、勝ち星が重なるごとに勢いもでてきた。
 12日目に当たった横綱白鵬との取組では中に入って相手に休む間を与えず下手投げ。白鵬も思わず手をついてしまう。白鵬は千秋楽まで2敗を守ったが、力任せ、強引というような形容のあてはまる相撲も多く、相手のまわしを速く引いて強く引きつけ腰で寄るという本来の相撲が少なかった。千秋楽、13勝2敗同士で当たった優勝決定戦でも、上背の違いを利用した白鵬が安馬の首を無理に押さえつけ強引な投げで勝負を決めたが、強いというよりは勝つことだけにこだわった相撲という印象が残った。
 安馬は横綱大関全員を倒す13勝。相撲内容も前に出て攻めるいい相撲で、大関昇進は間違いなし。三賞は技能賞だけというのが寂しい。殊勲賞も当然受章だろう。三賞だから3人で一つずつなどというけちくさいことはいわず、ちゃんと評価すべきところは評価しないと。
 優勝争いに最後まで残ったのは平幕の嘉風。これまでは腰が軽くどれだけ押しこんでも押し切れないという相撲が多かったが、今場所はしっかりと最後まで押し切れたのが好成績につながった。来場所はその真価が問われるところになるだろう。初の敢闘賞は当然。
 雅山もいいところまでいったが10日目を過ぎると息切れしてしまった。稀勢の里は勢いを取り戻して11勝。前に出る馬力が戻った。ここ数場所体調のせいで不調だったが、それを言い訳にしないところがすばらしい。殊勲賞の安美錦は初日の白鵬戦の勝利がきいた。一時に比べると馬力が落ちてきたが、頭脳戦では幕内随一というところはちゃんと見せてくれた。
 新関脇の把瑠都も上体に頼り切った相撲からまわしを引きつけて腰を入れて寄る相撲が身についてきた。この相撲が完全に自分のものになったら、大関昇進も夢でなくなるだろう。
 大関陣は、初日から足に力の入っていなかった魁皇が途中休場。琴光喜は優勝のチャンスが出たら負けるという精神面のもろさを露呈。千代大海は例によって後半スタミナ切れ。琴欧洲は前半から負け続け、千秋楽に勝ち越したのが奇跡のような相撲内容だった。
 若手では新三役で負け越したものの随所に光るものを見せた豪栄道、安定した取り口になってきた豊ノ島、がぶりにはいる体勢を速く作れるようになった琴奨菊など、来場所以降も期待ができそう。
 とにかく今場所は安馬に尽きる。伊勢ヶ浜部屋の伝統をつぐ「照国」「清国」などの襲名も噂されている。そうなれば今後は白鵬とともに新しい時代を作ってくれるのではという期待が持てる。こういうわくわくした気持ちで大関に昇進を見つめられるのは白鵬以来久しぶりだ。

(2008年11月24日記)


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