大相撲小言場所


秋場所をふりかえって〜朝青龍、史上3位の24回目の優勝〜

 場所前に朝青龍の進退について心配したのだが、いらぬお世話だったようだ。初日から14連勝し、千秋楽の本割こそ白鵬に苦杯をなめさせられたが、優勝決定戦では持ち前のスピードで先手をとり、絶妙のタイミングと力技で白鵬を転がした。24回目の優勝は北の湖親方と並ぶ史上3位の記録である。
 とにかく今場所の朝青龍には参った。前半こそ強引に決める相撲が目立ち、白鵬や琴欧洲らの相撲と比較しても危なっかしいところがあったので、これは後半の大関戦で息切れすると予想していたのだが、その大関陣が先に息切れしてしまい、終盤は日馬富士や琴欧洲の方がおっかなびっくりで横綱と対戦していた。これでは勝てません。とにかくスピードと技、そして相手を圧倒する気迫、これが勝っていた。
 千秋楽のテレビ放送で刈屋アナウンサーがしきりに場所前の稽古で朝青龍はやる気満々だったと絶賛したのに対し、解説の北の富士さんも舞の海さんも「場所前の調整だけで勝てるというのは……」「ふだんの稽古をしっかりしている方に勝ってほしい」と否定的な言い回しをしているのが印象的だった。
 北の富士さんも指摘していたし、師匠の高砂親方も武蔵川理事長に謝罪に行ったそうだが、勝ち名乗りを受けた後、土俵上で勝ち誇るように両手こぶしを握って振り上げたのには感心しない。よほど嬉しかったのだろうが、こういうところが日本の相撲文化を理解していないといわれ品位に欠けると非難されるところだろう。
 一方の白鵬は5日目までは盤石。6日目の翔天狼戦で油断したのかまわしも取らず腰高のまま前に出てはたきこまれ、その後しばらくは相手のペースに合わせるような相撲になってしまった。ひじを痛めたり腰の具合もよくなかったようだ。それでも勝てたのは稽古の貯金があったからだろう。千秋楽の本割の相撲は、立ち合いの踏み込みといいその後の前さばきといい出足の鋭さといい寄り切る時の緻密な動きといい、完璧だった。それだけに翔天狼戦のとりこぼしはもったいなかった。なにしろ翔天狼は今場所白鵬からの金星の他は旭天鵬からしか勝てず2勝13敗という成績の力士だったのだから。
 敢闘賞の把瑠都は初日の朝青龍戦だけはまったく力を出さなかったが、2日目以降は敗れた白鵬戦でも相手を苦しめ、強さにうまさが加わった。大関候補と今後は目されるのだろうが、朝青龍に対する無気力ととられても仕方ないような相撲がなくならないことには、と思う。技能賞の鶴竜も同様。うまさに力強さが加わりこちらも今後大関を狙う予備軍と考えられるだけの力をつけてきているが、朝青龍に対してもっと気迫負けしないようにしないと、大関どころではない。
 大関陣では、途中休場の千代大海はもう進退を決するところまで来ているのに師匠が許さないという感じ。前回のカド番の場所で無気力相撲と協会から指定された相撲を含む「情け相撲」で勝ち越し大関の座を維持したのが裏目に出たか。
 日馬富士は序盤にとりこぼして優勝争いから乗り遅れた。琴光喜と琴欧洲は前半突っ走ったが後半息切れ。魁皇は、ま、この人は別格。なんと通算勝利で千代の富士に続く単独2位を記録した。存在自体が宝というところまできている。それにしてもなんとかならなかったか大関陣。
 三賞以外では、ひじの内視鏡手術をしたばかりの豪栄道が10勝。内容的には苦しかったが、これだけ勝てるというのは地力がついてきたか。千秋楽に勝てば敢闘賞の武州山は勝ちを焦って阿覧の注文相撲に引っかかったが、それまでの相撲は前に出る力も強く、惜しいところで大魚を逃した。栃煌山は今場所は出足がよくいい感じの前進相撲。来場所もこれが維持できるか。
 横綱同士の優勝決定戦で盛り上がりはしたが、他の力士のふがいなさがまたも目立ってしまった場所であった。

(2009年9月27日記)


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