中盤までは先場所同様の横綱対決で幕を閉じると思われた展開が、朝青龍の自滅で一転白鵬独走という形で終わった。それにしても白鵬は強い。年間最多勝記録を大きく塗り替える86勝目を千秋楽の朝青龍戦であげて、全勝優勝を飾った。これで優勝回数は12。双葉山(年2場所制時代)、と武蔵丸に並んだ。優勝を決めたのは14日目。琴光喜にしぶとく粘られたが、じっくりと時間をかけて攻め、最後は出し投げで下した。初日の稀勢の里戦から、相手に力を出させておいてから料理するという横綱相撲。スピードで相手を圧し相手に相撲を取らせないという朝青龍の相撲と好対照だ。見た目の派手さでは朝青龍が強そうに見えるけれど、白鵬の相撲の方が負けないしもろさもない。もっとも、どんな体勢になっても力を入れたように見えないのに気がついたら自分の体勢にしていた貴乃花の相撲ほどの自然体ではないのだが。とにかく、今場所のような相撲を取り続けていたら、連勝記録はかなり伸びるだろう。
朝青龍は立ち合いの張り手で若手力士を撃破してきたが、日馬富士戦に立ち合いの変化で敗れると、翌日からは大きなテーピングをしてきて連日そこを攻められ連敗、あっという間に優勝争いから脱落してしまった。白鵬の相撲を見ていたら負けそうにないので、1敗を喫した時点で精神力が切れたか。
その1敗をくらわせた日馬富士も、今場所は膝の怪我の影響でなんとか9勝をあげたのみ。序盤に負けがこんだ時は休場かと思わせた。魁皇も満身創痍での相撲。しかし、幕内通算勝利は800を超え、北の湖の記録を破り、千代の富士に肉薄。長年の努力がつくった記録だろう。とはいえ千秋楽にやっとこさの勝ち越しは限界まで来てると感じざるを得ない。琴光喜も関脇時代の攻めの遅さが目立つようになり、予想通り大関を維持するので精一杯になってきた。琴欧洲のみ10勝をあげたけれど、苦手の豊ノ島にいいようにやられた相撲など、勝った相撲と負けた相撲の差が大き過ぎる。白鵬の独走を許したのはこの4大関にも責任がある。
敢闘賞はベテランの雅山と若手の栃ノ心。ともに12勝をあげ、文句なしの受賞。雅山は幕内中位で調子が良ければこれくらい勝って当然だろう。栃ノ心は上手をとる位置が非常によく、引きつけ、吊り寄りの動きがよかったのが勝因。ただ、スピード感や力強さではまだまだという感じなので、来場所は元に戻る可能性大か。技能賞の豊ノ島はまさに満身創痍。それでも今場所はうまく相手の中に入ってテンポのよい相撲が取れた。技能賞にふさわしい相撲だった。
中盤まで優勝争いにくいこんだ嘉風は途中で息切れ。もっとスタミナがほしい。稀勢の里、豪栄道、栃煌山、豊真将らは自分の相撲が取れなかった。特に朝青龍を前にしたら、みんなびくびくおどおどという感じで、若手のホープとして物足りなさばかりが残った。
把瑠都と琴奨菊は勝ち越したものの負け方がよろしくない。得意な相手には豪快に勝つけれど、苦手にはあっさり、では大関にはなれまい。
というわけで、今場所も大関陣と若手に対する苦言ばかり書くことになってしまった。
そして、ついに大関を陥落した千代大海。来場所出場し、6敗した時点で引退、ということらしい。ぼろぼろになるまで現役を貫きたいなら、小錦や霧島のように十両に落ちるかというところまでしぶとく頑張ってほしい。なにか引退する理由をつけるために土俵に上がるような感じがするのは私だけか。
ともかく、白鵬のための場所だった。来場所は白鵬を苦しめるような相撲を若手のホープたちにとってほしい。
(2009年11月29日記)