初場所4日目、千代大海が引退を発表した。
遅きに失した。そんな感じがする。大関の地位にしがみつくようにカド番を繰り返し、史上第一位の64場所の大関在位を記録したといえども、その間の勝率を考えると「名大関」とは言い難いというのが私の正直な思いである。
突き押しの力士は大関になっても短命だといわれるが、その定評を覆したということだけはいえるが。
一番強かったのは大関昇進直前のころか。力のある突き押しと勢いに乗ったら止まらないスピードで若くして大関の座を手に入れた。ただ、突き押しの相撲はどうしても調子に波があるから、横綱になるような安定した成績を残すにはよほどの精進が必要だと思われた。
そしてそれは現実のものとなった。
師匠の九重親方の口から「大海は稽古しない」と言われたりもした。本番に強い一発相撲。前半に勝ち星をためておいて、スタミナが切れる終盤に横綱と対戦して負ける。晩年の千代大海はまさにそんな感じであった。とはいえ、その一発相撲がつぼにはまると横綱朝青龍をも圧倒するだけの力はあった。
魅力的な突き押し相撲を開花させた。あのころの千代大海の輝きは忘れられない。それだけにここ数年の大関の座を守ることに汲々とした姿の方が印象に残ってしまうのが残念でならない。
今後は佐ノ山親方として後進の育成につとめるという。弟弟子たちには、若き日の千代大海を彷彿とさせる迫力のある突き押し相撲を伝授してほしい。
いろいろと複雑な思いはあるけれど、長い間お疲れ様でした。
(2010年1月13日記)