大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜土俵より理事選挙〜

 白鵬の安定感がこうもあっさりと崩れてしまうとは思わなかった。把瑠都に喫した1敗目は少し焦ったかという感じではあったが、日馬富士と魁皇には明らかに腰高で出ていったところをうまくかわされたという相撲で、持病の腰痛が再発したのかもしれない。やはり相撲は腰でとるもの。千秋楽の朝青龍戦では腰をしっかりと落ちつけて隙のない寄りを見せた。昨年は1年を通じて4敗しかしなかった横綱が今場所だけで3敗とは誤算だったろうが、まずは故障があるのならその治療を優先してほしいものだ。
 優勝は朝青龍。5日目、豪栄道に土俵際の逆転負けを喫した時には相手をなめすぎたなと感じさせたが、今場所の朝青龍は6日目以降は非常に慎重な相撲に変わり、時には把瑠都をつかみ投げのような相撲で破る豪華さも見せつつ、順調に星を重ねての優勝である。ただ、白鵬の自滅に助けられた部分もあったように思うが。それでも史上単独3位となる25回目の優勝は立派なもの。こういう相撲を取り続けられれば、まだまだ優勝回数は増えそうだ。ただ、写真週刊誌に狙われたような朝までのやけ酒と部屋のマネージャーに対する暴力はいただけないけれど。
 魁皇が3日目の千代大海戦で千代の富士を超える幕内最多勝利を記録。長く上位で取り続けてきたその存在感が今場所も光った。勝星は9で止まったが、その中には白鵬からのものも含まれており、まだまだ力のある所を見せてくれた。日馬富士は白鵬をうまくかわして勝ち、10勝をあげた。優勝争いにからむかと思われたが把瑠都に軽量をつかれて敗れ、機を逸した。琴欧洲は逆に小さい力士に跳びこまれてもろく敗れる場面が多く、特に嘉風や豪風からの敗戦はその弱点をまざまざと見せつけた。琴光喜は初日からまさかの4連敗。師匠は「体より心」と敗因を語っていたが、豊ノ島に勝って初日を出してからまた連敗して途中休場。
 殊勲賞は把瑠都。9日目まで快調に飛ばし、特に白鵬戦のよく考えた巻きかえなど相撲を覚えてきたという感じがあった。ただ、優勝を意識しすぎてかたくなり、得意の豊ノ島に立ち腰から中に入られあっけなく敗れた後は、ますます腰高となり、勝った相撲も強引な力技が多く、12勝して来場所は大関の座に挑戦することになったが、すんなりといくかどうか。
 敢闘賞の豊響は幕尻ながら12勝をあげての受賞。本来の持ち味であるぶちかましと力強い押し相撲が戻ってきた。技能賞は常連の安美錦。2場所ほど故障もあってふるわなかったが、今場所はみごと復活。三賞は逃したが、豊ノ島も中に入って大きく取る相撲が復活して勝ち越し。稀勢の里は勝ち越しはしたが初日から5連勝しながら5連敗と、ムラッ気は相変わらず。豪栄道は横綱朝青龍から初金星。しかし、相撲そのものは何か弱気な感じが続いて負け越し殊勲賞を逃した。
 十両優勝の臥牙丸は体の生かし方を体得したのか、下半身と上半身の動きがぴたりと一致した前進相撲で12勝。幕下時代の巨体を持て余した相撲から脱却した。
 前半は魁皇の幕内勝利記録と千代大海の引退など、ベテラン力士が話題になり、後半は朝青龍の暴行問題など土俵外の話題もあったが、全体に充実した内容の相撲が続いた。
 とはいえ、場所を通じてスポーツ紙の一面を飾ったのは理事選挙の話題ばかり。貴乃花親方の立候補やらそれを支持する親方衆の一門離脱など、相撲協会の江戸時代からつながる寄り合い運営を民主的な運営にしようとする動きを興味本位でとらえられてしまった。土俵よりも理事選挙が注目されるというのは、協会の運営の民主化にはいいかもしれないが、相撲ファンとしてはちょっと情けない気持ちがしたのも事実である。

(2010年1月24日記)


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