大相撲小言場所


夏場所をふりかえって〜白鵬無人の野を行くが如き全勝〜

 注目の新大関把瑠都は初日から7連勝。とにかく必死でとばしている感じだったので、終盤息切れするだろうと踏んでいたが、中日に鶴竜に押し倒されたあたりから緊張の糸が切れかかり、琴欧洲や日馬富士ら先輩大関たちの意地の相撲で連敗したあとの白鵬戦ではいっぱいいっぱいという感じで相手にならなかった。場所前の予想通り10勝止まり。しかし新大関での10勝は立派な成績。特に他の大関がすべて9勝6敗と振るわなかったのだから。
 優勝した白鵬は、まさに横綱相撲。各大関たちが力を使い果たしてから仕留めるという、余裕の取り口。鎧袖一触という勝ち方も強さを感じるけれど、今場所の白鵬のような相撲は底知れぬ深さを感じさせる。まさに無人の野を行くが如しというところだ。13日目に優勝を決めてからも緊張感をもって残り2日も連勝したのは立派。その2日間は54代横綱輪島大士へ敬意を表して黄金のまわしを締めたというのも、先人に対する尊敬の念を感じさせていうことなし。千秋楽のインタビューで「次の目標は平成の大横綱貴乃花さん、昭和の大横綱大鵬さんの優勝回数」と宣言したのは大言壮語することのないこの横綱にしては珍しい。それだけ上機嫌だったのか。そして、朝青龍でもなく北の湖でもなく千代の富士でもなく貴乃花と大鵬の名をあげたところに、白鵬の目指す「強さ」がどんなものかよくわかった。先場所の「勝ちにいかないで勝つ」という言葉と合わせ、白鵬は恐ろしく高く深い境地を目指している。
  把瑠都以外の大関陣に目を転じると、日馬富士は左ひざの古傷がよくなく、琴欧洲は例によって強い時と弱い時の差が激しく、琴光喜は野球賭博報道の影響もあって不安定。魁皇は千秋楽に琴欧州を破って通算1000勝を記録し「角界の宝」としての存在感を見せた。いずれも白鵬の牙城を崩すには至らず。
 三賞は殊勲賞と技能賞は該当者なし。敢闘賞に12勝をあげた阿覧と4大関を破った栃ノ心。阿覧はまだ相撲が未完成ながら力の強さを感じさせた。これで相撲を覚えるとさらに強くなるか。栃ノ心は相撲のうまさを感じさせる取り口が目立った。勝ち越しがやっとだったことを考えると敢闘賞よりも技能賞でもよかったのでは。
 三賞以外では10勝をあげた白馬が目立ったが、立ち合いの変化が目立つなど、星勘定優先という感じなのが気になる。霜鳳は下位ながら10勝をあげ、かつての速攻の技能相撲が復活した。長らく故障に悩まされたが、幕内中位に上がる来場所もこの相撲を維持できるか。
 とにかく白鵬のための場所だった。どこまで強くなるのか。恐ろしいばかりである。

(2010年5月23日記)


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