大相撲小言場所


平成二十三年五月技量審査場所展望〜展望の見えない開催〜

 今、パソコンに向かい、何から書けばいいのか迷っている。
 初場所終了後、元春日錦の竹縄親方の携帯メール解析が発端となって「八百長」の実態が明らかになった。千代白鵬、恵那司が事実関係を認め、特別調査委員会は元春日錦の証言をもとに「クロ」とされる力士を次々と理事会に報告し、放駒理事長は元海鵬の谷川親方をはじめとし、清瀬海、白馬、猛虎浪、蒼国来、徳瀬川、光龍、春日王、琴春日、将司、豊桜、境澤、霜鳳、旭南海、安壮富士、若天狼、保志光、十文字、霧の若、白乃波、山本山、星風に引退勧告を行った。蒼国来と星風、谷川親方は引退を拒否し、除名処分となる。それ以外の親方と力士は引退はしたものの、元春日錦、千代白鵬、恵那司の3名は「八百長」への関与を認めたが、残りの力士は関与を否定しながらも師匠に迷惑をかけられないのと退職金が保証されるためやむを得ず引退を受け入れたということである。
 春場所は中止となり、夏場所も通常通りの興行を断念。今場所は観客を無料で入れ、名古屋場所の番付を作成するための「技量審査場所」という形で挙行されることになった。NHKはテレビ中継をとりやめ、取組の模様は日本相撲協会のホームページやニコニコ動画で配信されるもののみとなった。
 現在の大相撲はいわば死に体同様という状態である。名古屋場所の開催も正式には決定していないし、理事長の言う「膿を出し切る」ということが本当にできているのかどうかも不明だ。元春日錦らの一方的な証言だけで引退勧告がなされたわけだが、三役以上は「関与を認められなかった」と早々と宣言されたのも不可解である。八百長の仲介役である「中盆」は恵那司だけではあるまい。彼以外の「中盆」が横綱大関の八百長関与を示唆したらどうするのだ。また、完全な「ガチンコ」力士の名前をわざと口にしたとしたら……。
 引退勧告は「トカゲの尻尾切り」のようなものであるように、私には感じられてならない。「膿を出し切る」ことなど不可能だろう。前記の引退勧告対象の力士たちには心を入れ替えて土俵に精進する機会を与えてもよかったのではと思う。個性豊かな有望力士がこのような形で多く姿を消すことになったことが残念でならない。
 さて、今場所の焦点だが、本当なら白鵬の7連覇や稀勢の里、琴奨菊の大関挑戦という話題でマスメディアをにぎわせていたはずだが、こんな形の開催となったため、なにか後ろ暗いことでもしているような感じになってしまった。おそらく取組は15日間ずっと異様な雰囲気の中で進行していくのではないだろうか。
 もっとも、大量引退で関取がごっそりといなくなった分、幕下上位の力士にとってはこれがチャンスである。双葉山は春秋園事件で力士が大量脱退した時に急遽幕内に引き上げられ、そこから出世をした。白鵬は関取の枚数を増やした時に普通なら上がれないような成績だったのに十両に滑り込むように昇進できた。これをきっかけに幕内力士や関取になる未来の大力士が現れるかもしれない。そういう楽しみもある。
 私は相撲を見捨てたくない。必ず元の通りの興行や中継に戻るはずである。その時のためにも今は辛抱の時。だいたい本場所というのはいつも「技量審査」の場であるはず。わざわざ「技量審査場所」と銘打つ必要があるのかという思いもある。通常の一割でよいから料金をとり、全額を寄付にまわすような形の開催でもよかったのではないか。
 今、ファンとしてできるのは毎日ネットでちゃんと相撲を見て、応援を続けることのみ。稀勢の里や琴奨菊の大関昇進を願いつつ本当の「ガチンコ」相撲が土俵上で繰り広げられるのを期待したい。
 

(2011年5月7日記)


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