大相撲小言場所


五月技量審査場所をふりかえって〜力士はどう土俵と向き合ったか〜

 すべて異例の条件で開催された技量審査場所。
 観客は無料、懸賞金、表彰は辞退。優勝と三賞の表彰は行われるが、天皇賜杯はなし。NHKのテレビ中継はなく、インターネットによる生放送のみ(ただし、ニコニコ生放送では予約によりタイムシフト視聴は可)。支度部屋や会場には監察委員の親方衆が常駐し、携帯電話の支度部屋への持ち込みや東西の支度部屋の力士の域気も禁止となった。
 八百長により引退勧告や除名となった力士が特に十両に多く、十両の取り組みが極端に少なかった。十両土俵入りは人数が少なくスカスカ状態。ネットで映像を見たが、なにか悲しくなってしまった。
 しかし、幕下上位の力士にとっては関取に上がれる大きなチャンス。幕下上位の力士たちは連日熱戦を展開し、まさに真剣勝負の面白さを堪能させてくれた。
 優勝は13勝2敗で白鵬。7場所連続、19回目の優勝である。1敗目を喫した日馬富士戦では直前の地震に集中力をそがれて日馬富士の横の動きに対応できず、千秋楽は2敗で追う栃ノ心が敗れたため取組の前に優勝が決定したためか、魁皇に右上手を許して苦杯をなめた。
 上位力士にとっては土俵に集中しにくい場所だったのだろう。大関把瑠都はそれを「遊びの場所だよ、花相撲みたいなもんだ」と表現してしまい、理事長から叱責されてしまった。無料公開という問題は、上位力士にとっては大きな意味を持ったのかもしれない。
 把瑠都は中盤に優勝争いから脱落。日馬富士と魁皇は白鵬に勝つことで意地を見せたが、琴欧洲はまったく力の入らない相撲で途中休場。大関候補たちも琴奨菊がなんとか10勝して来場所に望みをつないだが、稀勢の里は序盤から気負い過ぎて相撲が雑になりなんとか千秋楽に勝ち越すのがやっと。栃煌山は大きく負け越して一からやり直しとなった。
 新入幕の魁聖は初日から9連勝。終盤は上位との対戦が組まれたため経験不足を露呈して負けがこんだが、勢いのある相撲が評価されて敢闘賞。千秋楽まで優勝争いをした栃ノ心は上手の引きつけの強さを発揮して12勝をあげ、敢闘賞。
 終盤に力強い相撲で星をのばした鶴竜が12勝をあげて技能賞。大関候補の筆頭にあげてもおかしくない。序盤に4大関を撃破した豪栄道は土俵際の強さを見せて11勝し、技能賞。次代の大関への争いが激しくなってきた。
 今場所、下位力士はその技量を真剣に発揮し、上位力士は責任の大きさからか逆に集中力を欠く、そのような場所だったと感じられた。
 ファンとしては来場所は通常の形態で開催してほしい。このような形の開催が続くと、力士の士気は上がらず、テレビ中継がないためにファンも満足できず、じり貧となるだろう。ただ、ネット中継のおかげでこれまで相撲に関心のなかった層が新たに相撲の魅力を知ったという怪我の功名もあった。こういう形の開催でなければ、ネット中継などは考えられなかった。これは通常の興行に戻っても続けていただきたい。

(2011年5月22日記)


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