大相撲小言場所


春場所をふりかえって〜白鵬逆転優勝、鶴竜大関へ〜

 場所前、鶴竜の精神面での弱さについて危惧をしていたが、14日目までについてはその危惧も無用だった。特に横綱白鵬を破った一番など、思い切りのよさと慎重さがうまくかみあい、まさに大関にふさわしい相撲だった。なによりも勢いがあった。稀勢の里に敗れた相撲は、立ち合いから圧倒された。鶴竜の一番の弱点をつかれたといえるだろう。これが千秋楽に出た。勝てば優勝という相撲で豪栄道の張り手にひるんだところを一気に寄り切られた。そして白鵬との優勝決定戦は、初めての優勝争いへの重圧に負けたといえるだろう。それでも、13勝で優勝同点は立派な成績。何よりも相撲内容がよかった。殊勲賞と敢闘賞を手土産に大関昇進が確定的になった。
 22回目の優勝で貴乃花に並んだ白鵬は、腰痛が出たのだろう。鶴竜との相撲も稀勢の里のおっつけに腰が浮いて敗れた相撲も、守りの体勢に入ったところにつけこまれた。しかし、今場所はそのあと立ち直り、常に攻めの姿勢を忘れずに相撲を取り切ったことが優勝につながった。特に決定戦では徹頭徹尾攻めて鶴竜につけいるすきを与えなかった。まさに横綱の意地を見せたといっていいだろう。
 横綱昇進のかかった把瑠都は終盤戦、腰高のまま相手を振り回す相撲を取り、墓穴を掘った。特に琴欧洲に敗れて優勝争いから後退した相撲は、悪癖が出た上に琴欧洲に今場所一番といういい相撲を取られてしまった。そこで落胆して連敗し、横綱挑戦は振り出しに戻った。今場所の苦杯を糧にして、腰を入れて前に出る相撲を覚えたら、横綱は自然に自分の腰に結ばれることだろう。琴奨菊は今場所はがぶれる体勢が作れず苦戦した。日馬富士は軽量をつかれて敗れる相撲が目立った。稀勢の里は疲れが出たか序盤に取りこぼしたのが痛かった。琴欧洲は把瑠都に勝った一番が光ったが、頭を下げ過ぎて失敗する相撲が目立った。
 敢闘賞は豪栄道。千秋楽、鶴竜に勝ては受賞という条件をみごとにクリアした。小手先でとる悪癖があまり見られなかったのが好成績の要因だろう。技能賞には豊ノ島。本来の力を発揮すればこれくらいは当たり前にとれる力士だが、ここ数場所は序盤に連敗することが多かった。今場所は序盤からていねいな相撲で取りこぼしを減らしたのが好成績の原因だろう。
 目立ったのは高安の思い切りの良さ。豊真将の力強さ。来場所は上位に進出してその持ち味を発揮してほしい。
 新入幕の勢は気持ちが空回りした感じだったが、前に出る相撲は取れていたので、来場所十両に陥落してもすぐに幕内に戻ってくるだろう。本場所で観客の声援を集めたのは隆の山。勝っても負けても大きな相手に全力で立ち向かうしぶとさが浪花の相撲ファンを喜ばせた。
 十両筆頭で大きく勝ち越した千代大龍。中盤、引き技で楽にとる相撲を取り始めたが、終盤は出足も良く相手を圧倒する強さを見せた。
 2年ぶりの大阪場所ということで、各力士は熱戦を展開し、見ごたえのある相撲が多かった。来場所以降もこの調子で楽しませてほしいものだ。

(2012年3月25日記)


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