大相撲小言場所


夏場所をふりかえって〜史上初の平幕優勝決定戦を旭天鵬が制す〜

 予想外の結果というには限度を超えた、まさに誰も想像すらしていなかった場所となった。
 千秋楽、優勝決定戦の土俵に上がっているのはいずれも平幕。しかも37歳の大ベテラン旭天鵬と、新鋭栃煌山という組み合わせだ。旭天鵬は今場所は通算の白星が貴乃花を上回って史上10位に入ったことが話題になっていたが、これで調子をあげたということなのだろう。ここが特によくなったというところはないけれど、毎日自分の相撲をとり切れていた、その積み重ねが12勝3敗という結果につながったのだろう。栃煌山は非常に出足がよく、これまで見てきた中でも会心の相撲が多かった。
 ただ、この成績ならいつもなら優勝決定戦ということにはなっていなかった。白鵬が10勝5敗という信じられない成績に終わり、史上初の6人大関が星のつぶし合いをした結果、この2人が決定戦にまで浮上したという結果になったのだ。
 それくらい、白鵬はよくなかった。初日に安美錦に対して強引な相撲を取って逆転負けを食らい、その際に右手の指を剥離骨折し、それを隠して相撲を取っていたら、7日目からついに豊響、豪栄道、豊ノ島に3連敗してしまい、早々と優勝争いから脱落してしまったのだ。
 優勝争いをリードしていた稀勢の里が、12日目に栃煌山との直接対決に敗れ、さらに翌日は開き直って負傷部分に負担をかけない相撲で再び白星をのばしてきた白鵬に完敗。これで平幕2人に並ばれてしまった。14日目を終わった時点で、3敗に3人、4敗に3人という大混戦。下手をしたら11勝4敗の力士が6人で優勝決定戦ということになりかねなくなった。
 ただ、今日をそいだのは琴欧洲。千秋楽、じん帯を傷めたことで休場。この結果、対戦相手の栃煌山が不戦勝となり、千秋楽は自動的に4敗力士に優勝の可能性が閉ざされてしまったのだ。そして稀勢の里が把瑠都に敗れて4敗となり、史上初となる平幕同士の優勝決定戦ということになってしまった。6大関の星のつぶし合いがこの結果を生んだというのはそういうことである。
 それでも優勝は優勝。決定戦では堅くなって足が出ない栃煌山を思い切ってはたきこんだ旭天鵬に軍配が上がった。ベテランらしい、相手の動きを読み切った相撲だった。旭天鵬と栃煌山はそろって敢闘賞。
 白鵬に土をつけた力士の中から、勝ち越しを決めた豪栄道が殊勲賞を受賞した。千秋楽に勝ち越しと殊勲賞をかけた安美錦は惜しくも負け越し。技能賞は速攻相撲で4大関を下した妙義龍が2度目の受賞。妙義龍は一場所ごとに自信をつけていっていて、三役昇進も時間の問題だろう。
 大関陣では日馬富士が粘り腰がなく7勝7敗で千秋楽を迎え、かろうじて勝ち越し。琴欧洲は前述のように千秋楽に休場し、やはり8勝どまり。新大関の鶴竜も先場所の力強さが影を潜め8勝に終わった。琴奨菊がなんとか10勝して面目を保った。把瑠都も千秋楽に稀勢の里を下す意地を見せて、9勝とはいえ印象に残る相撲をとった。
 史上初の6大関並立という話題も、平幕同士の優勝決定戦でかききえた。白鵬の調子次第ではこういう場所は続くだろう。
 ところで、旭天鵬はモンゴル出身ながら、日本国籍を取得した「日本人」。この場合は「久々の日本人力士の優勝」ということになるのだろうか。まあ、モンゴル力士のパイオニアでもあることだし、やはり「モンゴル力士」とカウントされるのだろうなあ。
 長く続けていたらいつかはそれが実を結ぶこともある。それを証明してみせた旭天鵬の初優勝であった。

(2012年5月20日記)


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