戦後を代表する大横綱大鵬幸喜さんの訃報に接する。享年72。
近年は角界のご意見番という立場で、日刊スポーツの「土評」コーナーでも健筆をふるわれていただけに、突然の訃報に驚いている。最近では自分の所属した二所ノ関部屋消滅の記事にコメントを寄せてはった。1週間ほど前のことやった。まさかそれが引き金になったというわけやなかろうけれど。
私は現役時代の相撲は幼いころ、貴ノ花に寄り切られて引退を決意した一番をテレビで見た記憶があるだけで、相撲ファンになった時にはすでに親方として新鋭巨砲の指導にあたられていた。
引退後、大病を患わはって協会の重要な役職につくことはほとんどなかったし、せっかく部屋の後継者として娘婿の貴闘力に大嶽部屋を引き渡したのに、その貴闘力が野球賭博事件で協会から追放されるなど、現役時代の華やかさと比べると心労も多かったと思う。
それでも大嶽部屋は大竜が継承し、2人のお孫さんは将来力士になるのではとも言われていただけに、その姿を見るのを楽しみにしてはったやろう。
テレビでいろいろな親方が定年退職をする時に思い出の相撲として大鵬さんに勝った一番をあげはる。今日、テレビでゲスト解説として登場した元横綱三重ノ海の武蔵川親方も大鵬さんに勝った一番をあげてはった。それだけどんな力士にとっても目標となる「負けない横綱」やったということなんやなあ。
横綱白鵬に対してもいろいろとアドバイスをしてはったようやし、白鵬関もそれをよく吸収していて、伝統の継承という意味では誰よりも心を配ってはったんやないやろうか。それだけに、これからもまだまだ角界に対して苦言を呈する存在でいてほしかった。なにしろ優勝32回、続く千代の富士の九重親方も31回までたどりついたものの追いつくことがでけなんだ。頂点に立った人にしかわからん思いがその苦言には込められていたんやから。そう、「苦言」というのはこういう方から発せられる厳しい言葉のことなんですよ。最近はろくにものを知らん人の文句まで「苦言」と各新聞記者が多いけれど、そう言う記者には大鵬さんのコメントの重さなんかわからんやろうなあ。
これでまた「昭和」がひとつ遠くなっていく。
謹んで哀悼の意を表します。
(2013年1月19日記)