大相撲小言場所


春場所をふりかえって〜白鵬、大鵬に捧げる全勝〜

 久々に西の片屋に入った横綱白鵬。初日の安美錦戦は慣れない西方からの出で立ち合いから圧倒され、辛うじて逆転勝ち。この辛勝が2日目からの相撲を変えた。14日間、全く危なげのない相撲で、63連勝を記録したころの相撲を思い起こさせた。
 かたや東横綱となった日馬富士は、3日目の高安戦、4日目の千代大龍戦、ともに前のめりになったところを突き落とされる痛い連敗。これで勢いが止まり、中日には豊ノ島に中に入られ寄り切られてしまい、優勝圏外に。結局9勝6敗に終わる。9勝と全勝の繰り返しとなってしまって、横綱としては不安定なところを見せてしまった。いい時は突っ走るが、つまづくと立ち直れない。まあ、大鵬に対する柏戸的なポジションに落ち着くことになるのかもしれない。
 それ以上にふがいないのが大関陣。稀勢の里は中日まで白星と黒星が交互になるヌケヌケ状態で10勝したものの優勝争いに加わることすらできない。勝つ時の豪快さと負ける時のもろさの差の激しさが、特に今場所は目についた。琴奨菊は膝を痛めた影響でがぶり寄りができないため、いい体勢になっても前進する力が足りない。中盤までは2敗でくらいついていたが、横綱大関戦の続く終盤は相撲にならず、14日目に勝ち越すのがやっと。私が場所前にダークホースにあげた鶴竜も、闘志の見えない相撲が続き、序盤から取りこぼして8勝どまり。琴欧洲は怪我で序盤からまったく力が出ずに途中休場。
 白鵬に最後まで優勝争いで食いついていたのが平幕の隠岐の海。13日目についに栃煌山の前に屈して白鵬の優勝を許したが、これは責められない。出足よく、また、自分の形に早く持っていって白星を重ねた。来場所は新三役も期待できるが、今場所の相撲で自信をつければ面白い存在になるだろう。敢闘賞を受賞。
 御当所で歓声も人一倍大きかった豪栄道は関脇で10勝。ただし、立ち合いのあたりが弱く、器用さで勝ち星は拾うが、相手を圧倒するようなものが少ないのが気にかかる。まず、今場所の成績を足がかりに大関昇進に向けて再スタートを切ったというところか。小結の栃煌山は持ち味の出足を生かして10勝。相撲の力強さではライバル豪栄道をしのぐものがあり、もう少し丁寧さが出てくれば大関も狙える地力がついてきた。大関復帰を目指す把瑠都は前半は勢いのある相撲で期待させたが、膝の具合の悪い日はあっけなく負けたりして9勝どまり。故障が癒えなければ復帰は難しそうだ。
 前半、横綱大関を破って旋風を巻き起こすかと思われた千代大龍は7日目から途中休場。いよいよ大器が本領発揮かと期待させただけに残念。下位では宝富士が力をつけてきて11勝。三賞の候補に上りかけたが、賛成者が少なかったため見送りとなった。三賞は力士に力を与えるもの。せめて「千秋楽に勝てば」という条件付きでも候補に挙げてほしかった。
 大関陣が序盤にころころ負け、日馬富士もつまづいたため、白鵬の独走状態となり、優勝争いはあまり盛り上がらなかったが、相撲の内容自体は熱戦の多い場所だった。
 優勝インタビューで白鵬がわざわざ時間をもらい、亡くなった大鵬さんへ黙祷を捧げた。9回目の全勝優勝は、双葉山、大鵬の数字をこえる単独最多。まさに大鵬さんに捧げる全勝優勝だった。

 元大関雅山が引退。学生相撲から馬力相撲で一気に大関に駆け上がったが、怪我ですぐに陥落。しかし、それ以降は前に出る圧力と絶妙のはたきで若手の関門となっていた。大受以来、元大関として十両で相撲を取ったが、土俵に対する愛着があったのだろう。馬力と勢いで大関に昇進した時、私は「雅山でなく雑山」とこのホームページで書いたことがあるが、もう少し相撲に慎重さがあれば、もっと大関として長く相撲を取れただろう。素質を生かしきれなかった大物力士として、残念に思う。今後は二子山親方として後進の指導に当たる。頂点から挫折への経験を生かして、若い力士を育ててほしい。長い間、お疲れ様でした。
(2013年3月24日記)


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