大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜白鵬、負傷で全勝逃す〜

 白鵬が13日目に優勝を決めた。とはいえ、蒸し暑さもあって体調は必ずしも万全だったようではなく、中日の安美錦戦など、押しこまれてひやりとする相撲もあった。組みとめて正面から寄り切る相撲よりも、稽古場で若い者を転がすような投げで決める相撲も目立った。12日目の琴奨菊戦も、そのような半ば強引な投げで引っ張りこんで転がした。そして、勝ち名乗りを受ける前から苦しげな表情を浮かべた。13日目、2敗で追っていた碧山が高安の前に足が出ず倒れ、白鵬は琴欧洲を立ち合いからとったりで引きずりまわして体勢を崩したところを寄り切り、優勝を決めた。執念としか言いようがなかった。これで43連勝を記録したが、14日目の稀勢の里戦では攻めがすべて空回りをし、真正面から寄り切られた。さらに千秋楽の日馬富士戦ではまったく力を出せないまま日馬富士の突き押しに一方的にやられた。脇腹の肉離れということだが、骨折も考えられる。8月のジャカルタ巡業は思い切って休んで秋場所に備えるべきではないかと思うほど、予想以上に重症なのではないか。
 横綱昇進のかかっていた稀勢の里は、序盤で3敗。早々と昇進ムードが吹き飛んでしまった。千代大龍戦などは、全く足が出ないまま後ろにまわられて送り出された。明らかに緊張で体が動かないという感じだ。中日以降は気持ちが切り替わったか本来の強さを発揮し、2横綱を下したことで、千秋楽の相撲次第では来場所に希望がつながりそうだったのだが、苦手の琴奨菊に対して一方的に敗れ、横綱昇進については一から出直しということになった。精神的な課題が大きいのは言うまでもない。
 途中まで1敗で白鵬を追っていた琴欧洲は、11日目に日馬富士に敗れると、ガタガタと崩れて9勝どまり。鶴竜は10勝はあげたが、横綱戦ではいいところなし。琴奨菊も両横綱に歯が立たず、9勝がやっと。大関陣が崩れてしまったことが白鵬の独走を許した原因の一つだろう。西横綱の日馬富士も、中日に千代大龍に一方的に敗れると、緊張の糸が切れたように3連敗。千秋楽、白鵬の負傷のおかげで勝てて10勝はあげたが、全勝優勝した時のような勢いを保つことができない。横綱として壁に当たっている感じである。
 殊勲賞は1横綱2大関を倒した高安。前に出る圧力が強くなり、力強さが増した。来場所は新三役が確実で、期待のホープがやっと地力をつけてきたというところだ。新入幕の徳勝龍は千秋楽に勝てば敢闘賞というところまでいったが、肝心の千秋楽では体が動かず魁聖に一方的に敗れて三賞を逃した。技能賞は該当者なし。しかし、途中まで優勝争いにからんだ魁聖や碧山らに何もないのはおかしい。力士の励みになる賞なのだから、大盤振る舞いする必要はないにしても、妙な条件をつけるのではなく場所を盛り上げた功績をちゃんと評価してほしいものだ。
 十両では新十両の遠藤が14勝1敗の堂々たる成績で優勝。引き技に決して頼らず、突いてよし組んでよしの安定した相撲ぶりは、もう幕内力士の風格すら感じさせた。来場所は新入幕が濃厚。この先楽しみな力士がまた一人現れた。
 十両では、隆の山が負け越した翌日から5連勝。その必死さは他の力士も見習うところが多いと感じた。
 あとひとり、話題の力士をあげるとすれば、2年ぶりに本場所の土俵に上がった蒼国来だ。負け越しはしたが、日を追って土俵勘を取り戻していった。八百長疑惑で多くの力士が土俵から去っていったが、中にはこの蒼国来のようにもう一度土俵に上がりたい者もいるだろう。引退の撤回は難しいかもしれないが、再調査をしっかりして名誉回復だけでもできないものか。
 白鵬の独走と、さらに故障のために盛り上がらずに尻すぼみというような優勝争いになった場所だった。来場所こそ千秋楽まで目の離せない場所にしてもらいたいものだ。

2013年7月21日記)


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