大相撲小言場所


平成二十六年初場所展望〜稀勢の里、横綱へのチャンス〜

 先場所優勝の日馬富士が左足を痛めて全休となった。横綱昇進をかける稀勢の里にとっては、強敵が一人いなくなったわけで、チャンスが拡大したといえるだろう。ただ先場所の段階で理事長が条件として出した「両横綱に勝って13勝以上の優勝」というハードルは、逆に「白鵬に勝って14勝以上の優勝」に上がったといえなくもない。それだけに、序盤での取りこぼしは一切許されない状況になった。
 稀勢の里の横綱昇進を阻んでいたものは、主として精神的なものだといわれてきた。ここ一番というところで緊張が高まり、体が動かなくなるということがこれまでたびたび見られた。ただ、先場所、白鵬に勝った相撲で稀勢の里が自信を深めたようなので、これが精神的な落ち着きをもたらすことになれば、技術面では左四つ右上手の方を作りつつあるだけに、十分優勝争いに加わることは期待できる。これまで何度も期待すると裏切られきたけれど、今場所の稀勢の里は一味違うところを見せてくれそうだ。
 むろんその稀勢の里を迎え撃つのは白鵬だ。先場所、千秋楽で日馬富士との横綱決戦において不覚の踏み出しがあり優勝を逃している。また、稀勢の里にあっさりと優勝されては大横綱としても沽券にかかわる。意地でも稀勢の里の優勝を阻止せんと立ちはだかってくるだろう。優勝争いはこの2人に絞られているといってもいいだろう。
 カド番大関の琴奨菊の怪我が完治しているかどうか、心配である。得意のがぶり寄りが出せないとなると、苦戦することは必至である。受けにまわるともろいだけに、大関の座を維持するためにはひたすら前に出ることが必要だ。また、大関陥落の琴欧洲は10勝すれば一場所で大関に返り咲ける特権を生かしたいが、そのためには相手を呼びこんで苦し紛れに投げを打つ悪癖を出さないことが肝要だろう。実力はあるのだから、とにかく何が何でも勝つという執念を見せてほしい。
 下位力士では遠藤がどれくらい体調を万全にしているかが見ものだ。新入幕の場所は快進撃を見せながら途中休場。先場所は怪我が完治せず負け越した。今場所は真価を問われることになるだろう。初三賞、特に技能賞の受賞を期待したい。
 ところで、公益法人になるために年寄名跡の証書を各親方に提出させるということになり、鳴戸親方が提出できず、田子ノ浦の名跡を借り、部屋も旧三保ヶ関部屋を借りるという異例の事態になった。鳴戸親方の証書を先代の夫人が渡さなかったからだというが、いくら売買の対象となっているとはいえ、年寄名跡は力士だったものが所持していないとまったく意味をなさないものだ。これまでも死去した親方の遺族が引退した力士に名跡を貸すというケースは多かったけれど、横綱を狙う力士のいる部屋でこのようなごたごたが表面化したのは残念である。名跡は法人の評議員の資格なのだから、公益法人になった場合、やはり協会が一括管理する必要があるのではないか。先代と現親方の間で係争中の春日山の名跡の裁判の結果がどうなるか、それ次第で一気に改革が進むかもしれない。注目していきたいところだ。
 

(2014年1月11日記)


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