大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜白鵬、決定戦で鶴竜下す〜

 今場所の話題は稀勢の里の横綱昇進なるか、だった。しかし、初日に全く体が動かず豊ノ島に敗れると、5日目には碧山と立ち合いが全く合わず何度も待ったを繰り返した末に棒立ちのまま押し出され、これで横綱昇進への希望は断たれてしまったといえる。中日の栃煌山戦、9日目の豊響戦もいいところなく敗れ、12日目の琴欧洲戦で投げられた際に親指骨折。千秋楽には休場してついに負け越し決定。来場所はカド番という無残な結果に終わってしまった。原因は精神的なものだと思われるが、場所前に年寄名跡のごたごたで部屋を移らなければならなくなったというのも大きかったのかもしれない。鳴戸部屋から急遽転居し、旧三保ヶ関部屋を借りて新生田子の浦部屋の所属となったのはいいが、部屋の個室から一人暮らしになったり、長年世話になった先代鳴戸親方の女将さんと離れることになったり……。田子の浦部屋の力士たちは、高安、若の里、隆の山らいずれも自分の相撲を取り切ることができていなかったのを見ても、稀勢の里だけでなく部屋全体に精神的な影響が大きかったといわざるを得ない。
 かくして場所の途中の話題は遠藤に移ってしまった。遠藤は、序盤は土俵際での逆転相撲など柔らかい体を生かして勝ち星を拾い、中盤からは正攻法で勝ち星をのばしていった。大関との初対決は12日目の琴奨菊戦。立ち合いから一気に持っていかれて敗れたが、翌日は琴欧洲を真っ向から攻めて倒し、琴欧洲の大関復帰を阻んだ。敢闘賞は当然の結果だろう。
 白鵬の危なげない相撲で、独走態勢は確実と思われたが、鶴竜が大瀬席昇進当時の相撲を思い出させる力強い相撲で勝ち進み、1敗で横綱を追う。千秋楽、もろ差しから攻め立てて白鵬を下し、優勝決定戦に持ち込んだ。盛り上がりに欠けた初場所を救ったといっても過言ではない。
 白鵬は鶴竜に本割では負けたが、優勝決定戦では気持ちを切り替えて右上手からじっくり攻めて鶴竜を寄り切り、28回目の優勝を決めた。今年中に目標の30回目の優勝を果たすことができそうだ。
 下位では久々に入幕した里山が栃の若を一本背負いで破るなど場内を沸かせ、千秋楽に勝ち越したら技能賞という活躍を見せたが、高安との長い相撲の結果、浴びせ倒しながらも左手が髷をつかんでおり反則負け。技能賞はおろか、来場所またも十両に陥落することは確実となり天国から地獄へと突き落とされてしまった。まさに痛恨の髷つかみである。
 栃煌山は11勝したが、気がついたら勝ち星をのばしていたという感じで、来場所に真価が問われることになるだろう。もっとも、それだけ地力がついてきたということになる。
 十両の千代丸が優勝して来場所の新入幕を確実にした。弟の千代鳳と同時幕内ということになる。前に出る圧力の強さなど勢いを感じさせ、どれだけ幕内でその力が通用するか楽しみだ。
 琴奨菊は満身創痍の中なんとか勝ち越して大関の座を守ったが、琴欧洲は10勝のハードルは高く勝ち越しがやっと。先場所までは大関候補と言われていた豪栄道も千秋楽になんとか勝ち越しと低調。
 稀勢の里の不調で沈みかけた場所を、遠藤と鶴竜が救った。相撲そのものはどの力士もかなり力のこもったもので、…回はともかく面白い場所になったといえるだろう。

(2014年1月26日記)


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