白鵬は今場所は幾分相撲が雑になりがちだったが、力の差を見せつけるような相撲で勝ち進む。特に遠藤戦の気迫はものすごく、珍しく立ち合いから根こそぎ持っていく速攻で土俵下まで突っ走った。しかし、油断が出たのが11日目の豪栄道戦。土俵際、なんとか残った豪栄道に対し、勝ったと思って力を抜いたところを横にまわられ押し出された。しかし、翌日の稀勢の里戦では稀勢の里が気が焦り2度のつっかけに対しても強い集中力で立ち合いから稀勢の里を一気にもっていった。千秋楽、日馬富士に敗れたら稀勢の里との優勝決定戦という場面でも、落ち着いて日馬富士をあしらい14勝1敗で29度目の優勝を飾った。
優勝を争った稀勢の里は4日目に碧山に一方的に押し出されたほかは不利な体勢でもよく辛抱して星を積み重ね、最後まで優勝争いに名を連ねた。ただ、白鵬戦での焦りなどを見ると精神面の課題はまだ克服されていないと見る。しかし、実力はすでに横綱級である。
新横綱の鶴竜は4日目に遠藤に一方的に破れたり、12日目に豪栄道に土俵際ではたかれたり(これは豪栄道の髷つかみ反則で勝利)と十分に力を発揮できず、9勝に終わった。日馬富士は初日に新三役の嘉風に敗れると、6日目には豊ノ島に不覚を取り、それでも14日目に優勝のチャンスを賭けて稀勢の里に敗れるまでは優勝争いに踏みとどまった。
大関では琴奨菊が中盤から力が出せなくなり、負け越し。負傷した胸の筋肉がまだまだ完治していないのだろう。本来の力強い相撲が影をひそめていた。
殊勲賞は白鵬に唯一の土をつけた豪栄道。しかし、千秋楽にやっと勝ち越すなど大関昇進への足固めどころの騒ぎではない。爪の甘さが気になる場所になった。敢闘賞は勢と佐田の海。勢は2日目から8連勝。動きに切れがあり、劣勢でもよく粘る相撲が取れ、14日目まで優勝争いに名を連ねたのは立派。佐田の海は持ち前の速攻相撲に加えて粘りもあり、新入幕で10勝をあげて親子二代で新入幕三賞という初めての記録を作った。怪我で回り道をしていたが、入幕でその持前の動きのよさが開花したか。
期待の遠藤は白鵬に一気に敗れたあたりから出足が鈍り、大砂嵐のかちあげで敗れると持ち前の動きのよさも見られなくなり、負け越し。それでも千秋楽まで力を抜かず8敗にとどめたのはさすがだ。その大砂嵐は、今場所は特にかちあげがもろに決まる相撲が多く、相手の脅威になってきた。
ひょっとしたら千秋楽に優勝決定戦になるかもと思わせるところまで稀勢の里がなんとか白鵬についていった。新横綱のプレッシャーに鶴竜がつぶれてしまったのは残念だが、展開としてはなかなか面白い場所で、負け越しはしたが千代鳳ら若手も毎日気合の入った相撲で土俵を沸かせてくれた。そういう意味ではなかなか楽しめた場所であった。
(2014年5月25日記)