大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜白鵬優勝30回、豪栄道大関へ〜

 ここのところ、白鵬の相撲が雑になってきているが、今場所は特にそれが目立った。11日目、豪栄道に敗れた相撲は強引に投げにいこうとしたところを逆に寄られた。13日目の稀勢の里戦の敗戦は、まわしを取れないまま強引に出ていったところを小手投げで逆転された。優勝を決める一番で日馬富士に勝った相撲こそ慎重に取って出し投げで日馬富士を土俵にはわせたが、横綱は相手に力の差を見せつけなければならないと考えているのであれば、よりていねいな相撲を心掛けるべきだろう。それでも優勝してしまうのだから、やはり他の力士との力の差ははっきりしているのだが。
 それでも、カド番で苦しかった琴奨菊が中日まで8連勝し、鶴竜と白鵬の両横綱に敗れたのはやむを得ないとしても、千秋楽まで白鵬と優勝を争ったのは立派だった。大胸筋断裂という大怪我をしたにもかかわらず、故障個所が治ってきたら、それだけの実力はあるというところを見せてくれた。千秋楽に3敗で臨んだ豪栄道と高安は、豪栄道が大関琴奨菊を真っ向から下して大関昇進を確実にしたのに対し、高安は緊張のあまり豪風の攻めをまともに受けて敗れてしまった。それでも千秋楽まで優勝の可能性を残したのは立派。豪栄道は殊勲賞、高安は敢闘賞をそれぞれ受賞した。
 期待を裏切ったのは稀勢の里。2日目に安美錦にはたきこまれると、豪栄道、琴奨菊に敗れて優勝戦線から脱落してしまった。9勝6敗で横綱がますます遠くなった。
 物議をかもしたのは大砂嵐のかちあげ。この技は立ち合いに相手の体を起こすのに使うものだが、大砂嵐のは相手の顔面にもろに入る危険なもので、師匠から注意されたのも当然だろう。それでも鶴竜と日馬富士を連日下して旋風を巻き起こした。千秋楽に負け越して敢闘賞を逃したが、場所を盛り上げた一人だ。
 ライバルと目される遠藤は、序盤はもろい負け方が続き、稽古不足を露呈した。中盤から持ち前の相撲センスを発揮して巻き返し、千秋楽に勝ち越したのは立派だが、期待の程度から考えると物足りない場所になった。
 復活したのは妙義龍。速攻の押し相撲が取れるようになり、11勝。技能賞ものの活躍だったが、なぜか技能賞は該当者なし。毎場所書いているが、力士の励みになる賞だけに、今場所の妙義龍にはぜひ出してほしかった。
 尾車部屋のベテランコンビ、豪風と嘉風はそれぞれ初金星をあげて最高齢初金星の記録を更新しあい、存在感を見せた。
 最後になったが、日馬富士は金星の大安売りでやっと10勝。鶴竜も終盤の対横綱戦に連敗し、11勝にとどまった。優勝をかけて横綱が拮抗した力を見せてくれると土俵が盛り上がる。途中まで食らいついていた鶴竜はまだしも、序盤で早々に優勝争いから撤退した日馬富士は、来場所こそ期待したい。
 4人の力士が千秋楽にそれぞれ優勝の可能性を持たせてくれたという意味では、非常に面白い場所だった。

 元幕内の隆の山が引退。100kgに満たない体重で入幕。筋肉質の体に力が入ると赤く染まった。とったり、掛け投げなど意表を突く攻めが持ち味で、最後まで力士の体型になれない体質だったため、立ち合いの当たりが弱く、その分幕内上位には届かなかったのが残念である。個人的にひいきにしていただけに、自分の相撲が取れないと引退していくのは非常に寂しい。今後についてはまだ未定だが、母国チェコに戻って日本語を生かした仕事につきたいとのこと。第二の人生での成功を祈る。長い間お疲れ様でした。あなたの相撲は本当に楽しかった。ありがとう。

(2014年7月27日記)


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