先場所の千秋楽が明けた翌朝、定例の優勝力士会見の場で、横綱白鵬が記者たちに切りだしたのは「疑惑の一番があります」というものだった。稀勢の里戦では土俵際に引き落とされて物言い取り直しとなった。白鵬は「子どもが見てもわかる誤審」と言い切ったのである。
審判批判はどのような競技でも御法度である。審判の判定がたとえ誤審であっても、下された判定が「正しいこと」になるものなのだ。理事長から師匠の宮城野親方(元竹葉山)を通じて注意した。白鵬はバラエティ番組でとりあえず視聴者に対して謝罪らしいことを述べたというけれど、公式の場ではいまだ発言に関して何も口にしていない。それどころか、あからさまに取材拒否をすることもあるという。
目標である大鵬の優勝回数の記録を塗り替え、何か自分を追い詰める材料を作ろうとしたのだろうか。
ちなみに私がその相撲を見た印象では取り直しが妥当であったと思う。それどころか稀勢の里に有利にすら見えた。長年テレビ桟敷で見続けている私でさえ判定の難しい相撲だと感じたのだから、「子どもが見てもわかる」は言い過ぎであった。
もし白鵬がこの件で精神的安定を欠くようであると、優勝争いは混沌としてくる。ご当地ではじめて大関の姿を披露する豪栄道は「13勝(自己の最多記録を塗り替える)」を目標としてあげた。鶴竜は横綱として初めての優勝を今度こそと狙ってくるだろう。日馬富士も故障個所が癒えて場所前には充実した稽古ができたようである。
場所ごとに力をつけている遠藤、減量をして体の動きをシャープにしようとする逸ノ城など、期待の若手力士にもチャンスがあるかもしれない。
やっと「通算36回の優勝」を目標に決めた白鵬だが、稽古場では日によってかなり荒れていることもあったという。千代鳳や琴勇輝に対しては彼らのの気合を入れるかけ声「ホウッ」を「犬が鳴くのじゃないからやめた方がよい」と師匠を飛び越えて注文をつける(もしかしたら白鵬は自分のルーティーンを崩されるので嫌がっているのかもしれない)など、これまでの白鵬からは考えられない言動が見られるようになった。
荒れる春場所というが、白鵬に隙が見えたならば、他の力士にはチャンスである。激しい優勝争いを期待している。
(2015年3月7日記)